東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第43号(平成21年9月9日発行)

特集

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奮闘する“男性介護者”よ、手を取り合おう!

最近、“男性介護者”という言葉をよく耳にするようになってきました。あえて“男性”が付いていることからわかるように、この言葉は「介護の役割は女性のもの」と思われてきたことをあらわしています。しかし今日、全国の在宅介護者336万人のうちの109万人、およそ3分の1が男性なのです。
いまや男性が家庭で介護をするのは「ごく当たり前のこと」ですが、男性介護者特有の困難さがあるといいます。また、今年に入って男性介護者の全国組織が設立されるなど、男性と介護の問題がクローズアップされてきています。

日本で最初の男性介護者の会

顔写真

始終にこやかなオヤジの会代表の荒川不二夫さん(81歳)は、実は昨年末に倒れた息子さんの介護中。
「毎日が漫才みたいに楽しくやってますよ(笑)」

 高齢者についてのわが国初の実態調査がおこなわれた1968(昭和43)年の時点での「在宅介護者」とは「嫁・妻・娘」などで、男性が介護者として意識されることはありませんでした。その後1980年代までは、介護者に占める男性の割合は10%前後を推移。しかし1990年代増加に転じ、主な介護の担い手も “嫁”から配偶者や実子に移行しました。この時期、2000(平成12)年の介護保険制度導入へいたる「家族による介護」から「介護の社会化」への政策転換、核家族化・少子化傾向などの要因により、男性介護者が増加したと言われています。

 1990年代初頭から先駆的な活動をしてきたのが「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」です。代表の荒川不二夫(あらかわふじお)さんが奥さんの介護をしていたときにできた人脈が元となり、数人の男性介護者やソーシャルワーカーなどで、1994年に団体を立ち上げました。現在の会員は30名前後、荒川区だけでなく都内全域から集まっています。うち10名程度が訪問看護師・社会福祉協議会職員・ケアマネージャーなどからなる賛助会員です。

 荒川さんは「オヤジの会」設立の動機を「男は見栄っ張りだから、なかなか愚痴も言えなくてストレスが貯まっちゃう。お酒が入ると、やっと少し話ができるんだけど。だから、腹を割って介護の悩みをうち明け合える場が必要だったんですね」と説明してくれました。

 男性介護者特有の問題として、「弱音を吐いたり愚痴を言うのを潔しとせずストレスを貯めがち」「助けを求めるのが苦手で、一人で責任を背負い込みすぎる」などといった傾向があるといいます。

 このことを反映するかのように、高齢者虐待の加害者は息子と夫が1位と2位を占めており、介護疲れの末の心中・殺人事件では、加害者の4分の3が男性、という深刻な統計も出ています。

 「人に話を聞いてもらう、同じような境遇の人の話を聞いてみる。それだけで気持ちが軽くなることもあるんですよ」と語るのは、現在、お母さんを介護をしている「オヤジの会」会員の神達五月雄(かんだついつお)さん。家族を介護するためには、まず自分自身の健康状態を肉体的にも精神的にも保たなければいけないと言います。

 介護の忙しさから介護者は外出もままならない状況であることが多々あります。必要な役所での手続や日々の買い物にでかけるのさえ困難ですから、「オヤジの会」に出席するのも一苦労です。

 「集まりに参加できるように自分の介護環境を整えてみてください。行政や社会福祉協議会、ケアマネージャーなどに相談すると良いですよ」(神達さん)。

 男性介護者特有の問題としては「それまで家事をしたことがなかったために炊事・洗濯ができない」「長い会社勤めのせいで地域社会との関わりが薄く孤立しがち」といった、技術や経験にもとづく問題もあります。しかし一方で、勉強熱心なのも男性介護者の特長だそう。「オヤジの会」では懇親会と同時に外部講師によるさまざまな勉強会も開催しています。

 「お酒の席でも、ここをこう変えたら良くなるんじゃないかというような建設的な意見が出る。こうした積み重ねをもっとみんなで共有していきたいですね」(荒川さん)。

男性介護者よ、日の当たる場所へ出よう!

 都内の男性介護者はおよそ11万人と推計されます。男性介護者は決して少数者ではありません。しかし、都内の男性介護者団体はいまのところ「オヤジの会」だけだといいます。

 更に男性介護者の問題の一つとして「仕事を辞めて介護だけしている自分自身を認められない」「介護している姿を他人に見られたくない」という心の持ちようが指摘されています。いまのところ「オヤジの会」以外の男性介護者の活動が都内で広がりを見せない理由は、こういったところにも原因があるのかもしれません。

 理由はともあれ、介護することは男性にとって恥ずかしいことなどではありません。1999年に高槻市市長の江村利雄氏が「亭主の代わりはないけれど、市長の代わりはある」と言明、妻の介護を理由に辞任しました。あのとき江村氏の決断が、大きな驚きとともに好意を持って迎えられたことは今も多くの人たちの記憶に残っているのではないでしょうか。

 「オヤジの会」の賛助会員で看護師の松村美枝子(まつむらみえこ)さんは、孤軍奮闘している男性介護者たちにこう呼びかけています。「会に出てくれば有益な情報がたくさんあるし、仲間に出会えるし、ためになりますよ。今のつらい状況をなんとかしたいと思っているならば、あなたがまず変わらなくては!」。

広がる男性介護者の輪

 2009年3月、男性介護者の会や支援活動の交流、情報交換の促進、家族介護者支援についての総合的な調査研究などを目的として、「男性介護者と支援者の全国ネットワーク(男性介護ネット)」がついに発足しました。代表にはオヤジの会の荒川さんが就任。現在、京都市に拠点を置いて活動しています。

 現在の会員数は250人で、会員の9割以上が男性介護当事者や経験者です。団体会員としては10団体が所属しており、そのうち男性介護者当事者のグループは「荒川区オヤジの会」のほか、兵庫県宝塚市の「NPO法人スマイルウェイ」、長野県の「シルバーバックの会」の3団体です。男性介護者団体が全国にどのくらいあるのかは「男性介護ネット」でも把握はできていませんが、その数がまだ少ないことは確かなようです。しかし、一部の自治体や社会福祉協議会でも男性介護者のための集いを計画するなど、男性介護者の輪は少しずつではありますが、全国に広がりつつあります。

 「男性介護ネット」では、全国の情報を集約し発信していくほか、交流会や男性介護者のための講座なども開催しています。今後は政策提言もしていけるよう準備中とのこと。

 介護者のおかれている状況が良くなるということは、すなわち介護を受けている人たちのためにもなるということです。広がりつつある男性介護者のさまざまな動きが介護・福祉の向上に一役買うことを期待しましょう。

荒川区男性介護者の会(オヤジの会)

奇数月に男性介護者のつどい、偶数月に勉強会と懇親会をおこなっています。

講演会:「介護をめぐる問題について(仮題)」

講師:
津止正敏氏(立命館大学教授、男性介護ネット事務局長)
日時:
平成21年11月7日(土)(注)詳細はお問い合わせください。
問い合わせ先:
荒川区社会福祉協議会
電話:
03-3802-2794
ファックス:
03-3802-3831

男性介護者と支援者の全国ネットワーク(男性介護ネット)

外部サイトへ移動しますhttp://dansei-kaigo.jp/
(注)オヤジの会の情報も随時掲載されます。

冊子表紙

経験と知恵がつまった「男性介護者100万人へのメッセージ男性介護体験記」を発行しました。
購入希望は下記まで。

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075-811-8195
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