東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第38号(平成20年6月18日発行)

特集

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だれにでも見やすく、使いやすい “印刷屋さん”から広がる“メディア・ユニバーサル・デザイン”

“ 色”は重要な情報伝達方法の一つです。一般的に、色分けする=見やすくする工夫と考えられがちですが、色覚障がい者の人たちにとっては、かえって不便になってしまっていることが多々あります。
印刷の分野からユニバーサル・デザインに取り組んでいるCAN有限責任事業組合と、平成20(2008)年1月に発足したばかりのNPO法人メディア・ユニバーサル・デザイン(MUD)協会に取材しました。

一般色覚者の見え方と第二色覚障がい者の見え方を示す図
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図1 色覚障がいの見え方の例
(注)見え方は人によって異なります。

 人間の目には、光の三原色(赤・緑・青)を認識する神経細胞がそれぞれの色毎にあります。色覚障がいは多くの場合、これらの先天的変異により起こります。日本人男性のおよそ20人に1人、女性の500人に1人の割合で、色覚障がい者が存在すると言われています。

 色覚障がいは、一部の色が区別しづらいだけで日常生活にはほとんど影響はありません。しかし、いわゆる「色盲」といった言葉の語感からくる誤解や理解不足による偏見、就業や資格取得に対する制限など、不当な差別の対象となってきました。

 技術の発達で、印刷物の多くがカラーになり、また最近では、機械などの操作画面や電光掲示板も多色表示が当たり前になっています。色分け表示でわかりやすく見栄えが良くなる一方、色によって伝達される情報が多くなっているため、色覚障がいの人たちは情報が読みとれずに不便を感じてしまうというわけです。

路線図

図2 地下鉄マップ
正明堂印刷(株)の作品

 代表的な事例を挙げると、例えば防災マップや避難経路図の中には、危険度が高い場所を赤色、安全な地域を緑色で示しているものがあります。これは、赤と緑が識別しづらいタイプの色覚障がい者にとってみれば、わかりにくい情報表示と言わざるを得ません。このような場合、色覚バリアの問題は、命にも関わる重要なことになります。

 また、子ども向けの教材や玩具なども配慮が必要な分野です。グラフや図表などが多用されている場合は、理解度に差が出てしまうことが考えられますし、情報が正しく伝わらないことによって、危険な使い方につながってしまう恐れがあるからです。色名をセットで表記するといった方法で対処できる場合もあります。

 こうした色覚バリアフリーの必要性は、これまでにも指摘されてはいましたが、それが印刷物などに応用されることはありませんでした。色のユニバーサル・デザインは世界に先駆けて日本で最初に始まった分野なのです。

 CAN有限責任事業組合は平成15(2003)年に、東京都印刷工業組合墨田支部の有志のメンバーによって結成されました。きっかけは「色覚のバリアに配慮する必要があるのではないか」という、一人のカラーコーディネーターからの問題提起でした。結成当初は、参考資料がなにも無く、大変苦労したそうです。

 「研究者に話を聞いて勉強したり、色覚障がいの見え方を試行できるコンピュータソフトで何百回もシミュレーションして、経験的に色づかいのコツをつかみました。」(CAN本部代表・伊藤裕道さん)

 その後、勉強会を重ね、平成15(2003)年12月に墨田支部の主催で色覚バリアフリーを題材にしたデザインコンテストを開催しました。このとき最優秀賞を受賞したのが図2の地下鉄マップです。路線の表示に模様を加えて他の線と区別できるようにしたり、従来の色使いを少し変えることで色覚障がいの人にも見分けやすいようにしてあります。

 こうした作品は、バリアフリーであると同時に、一般の人たちにも違和感を感じさせないように配慮されています。バリアフリーに配慮することは大切なことですが、ある障がいの人向けに特化したものは、それ以外の人たちにとってはわかりにくく、使いにくいものになってしまう場合があります。障がいのある人にもない人にも、また、高齢者・子ども・外国人など、だれにでも便利で見やすくしようというのが、一歩進んだ「メディア・ユニバーサル・デザイン」の考え方です。

イラスト:一般色覚の見え方

イラスト:色覚障がいの見え方

図3 カレンダーのイラスト
山口芸術短期大学 糸原愛美さんの作品
一般色覚の見え方(上)と、色覚障がいの見え方の例(下)
(注)見え方には個人差があります。

 平成19(2007)年8月には、メディア・ユニバーサル・デザインコンペ(全日本印刷工業組合連合会主催)が開催され、広く作品が公募されました。このコンペの入賞作品が図3のカレンダー用のイラストです。ちょっと見ただけではどこがユニバーサル・デザインなのか分かりにくいかもしれませんが、そこがむしろ優れている点です。色の組み合わせやデザインを工夫することで、色覚障がいの人にもデザインや配色が楽しめ、またそれ以外の人にも違和感なく美しく感じられるようにデザインされています。

 CANの活動が広く知られるようになるにつれ、印刷だけでなく、スーパーマーケットの店内ディスプレイなど異なる分野で、監修を求められるようになってきました。その結果、単独の取り組みでは限界があることが見えてきたそうです。

 建築やインテリアデザインなどとの連携をめざすとともに、ユニバーサル・デザイン製品の品質安定をはかるための助言・認定機関設置の必要性の高まりから、平成20(2008)年1月にNPO法人メディア・ユニバーサル・デザイン(MUD)協会を設立することになりました。

 最近は企業や自治体などでもメディア・ユニバーサル・デザインに取り組むところが徐々に広がってきています。MUD協会にはバリアフリーについてのガイドライン策定の依頼などもあるそうです。しかし、ユニバーサル・デザインの難しい点は、規則化するとそれにしばられて、デザインとしての美しさの部分が軽視されてしまうおそれがあることです。

 色の使い方の他、文字やデザインなどに様々な配慮や工夫を加えることで、印刷だけでなく、看板・サイン、ウェブコンテンツなどを改善することができます。美しいデザインで、なおかつ、だれにでも情報をきちんと伝えられるようにする。それには一定の技術が必要になります。

 「ノウハウを独占するより、『思いやりのある社会づくり』に貢献できることの方が重要だと考えているので、組合を中心に講演活動等をおこなっています。世界でも印刷にこの考えを持ち込んだのは自分たちが最初だということが私たちの誇りだし、やりがいになっているんです」(MUD協会事務局長・橋本博さん)。

 いつもはなにげなく使っているモノのデザインや色づかい、ちょっと立ち止まって考えてみませんか。

(注)取材先の希望により、「障害」ではなく「障がい」と表記しています。

冊子表紙

『カラーユニバーサルデザインマニュアル』

発行 CAN有限責任事業組合
ISBN 9784990300203

問い合わせ先

CAN有限責任事業組合

ホームページ:外部サイトへ移動しますhttp://www.shomeido.co.jp/

NPO法人 メディア・ユニバーサル・デザイン(MUD)協会

ホームページ:外部サイトへ移動しますhttp://www.media-ud.org/

 平成20(2008)年12月に、第2回メディア・ユニバーサル・デザインコンペが開催されます。募集要項は7月初旬に発表されます。詳細は下記まで。
全日本印刷工業組合連合会(全印工連):外部サイトへ移動しますhttp://www.aj-pia.or.jp/

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