東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第33号(平成19年3月27日発行)

特集

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うつは人生の夏休みかも… コミックエッセイ『ツレがうつになりまして。』

およそ5人に1人がかかるとも言われている“うつ病”。「こころの風邪」とも呼ばれるほど、めずらしくない病気です。しかし、正しい知識の普及はまだ十分ではないようです。
うつ病はWHO(世界保健機関)の国際疾患分類にも定められている精神疾患の一種です。けっしてなまけや仮病ではなく、誰もがかかる可能性があります。うつ病は適切な治療で治すことが可能です。けれども放っておくと悪化して長引いたり、自殺につながる危険性もあります。最近、30〜40代の働き盛りの男性の間にうつ病が増えていることもあって、うつ病に対しての関心がとても高まっています。
そんななか、うつ病をわずらった夫との闘病生活を綴ったコミックエッセイ『ツレがうつになりまして。』がベストセラーになっています。この本が売れている背景、うつ病をめぐる問題について考えてみたいと思います。

〈あらすじ〉

ツレがうつになりまして表紙

妻の私はマイナス思考の売れないマンガ家、落ち込んでは愚痴をこぼす日々。一方、夫(ツレ)は前向き思考で几帳面、仕事もテキパキこなすサラリーマン。ところが、頼れるはずの夫がある日突然「死にたい」と言い出した!…病院での診断結果はうつ病。症状にとまどう私、回復の遅さにあせるツレ。一進一退を繰り返しながら、少しずつ回復していく…。健康な人には理解しにくいうつ病の症状と回復までの一年半の様子を、わかりやすくユーモアをまじえて描いていきます。

ツレがうつになりまして。

ページサンプル:診断までの過程

 この本を作ろうと思ったきっかけを、作者の細川貂々(ほそかわてんてん)さんは「彼がうつ病になった時、周りの人は全く理解が無かったんです。だから、うつ病についてもっと知ってもらいたかった。」と話してくれました。細川さんの夫でこのマンガの登場人物“ツレ”こと望月昭さんは、両親に理解してもらうために、本を薦めようと思ってもなかなか適当なものが見つからなかったのだそうです。うつ病についての本はこれまでにもたくさん出版されていました。しかし、医師や元患者のライター本人が書いたものがほとんどで、医学的で難しかったり、内容が深刻すぎたりして他人には薦めづらかったといいます。その点、『ツレうつ』は、絵柄も軽いタッチで可愛らしく、時に深刻な状況も視点をずらして面白く見せることに成功しています。

 『ツレうつ』を出版した(株)幻冬舎の管野裕美さんは「最初“うつ病”という言葉の響きに重たさを感じましたが、マンガの下書きを見たらネガティブなイメージが消えました。この本によって救われる人がいると確信し出版する必要性があると思いました」と出版のいきさつについて話してくれました。2006年3月に発刊。これまで17版をかさね、総販売部数はなんと16万部。「自分だけではないと知って安心したという感想や、その後を心配してくださる方からのメール等、読者の反響の多さにもびっくりしています」(管野さん)。

 うつ病について知りたかったのに、いろいろな意味で敷居が高かった。そこへ、マンガという手法でうつ病への敷居を低くしたことが『ツレうつ』がヒットした理由と言えるでしょう。

うつ病の気付きにくさ

ページサンプル:身体的症状

 都立中部総合精神保健福祉センターの広報援助課長で医師の熊谷直樹さんにお話を聞きました。「うつ病は、うつ気分・マイナス思考・意欲低下(おっくう感、楽しみにしていることをやらなくなる)等の精神的な症状の他、不眠・食欲不振等の身体的症状もあります。

 仮病やなまけと誤解されやすく、また、病気にかかっていること自体に患者本人も周りの人もなかなか気付きにくい。これには3つの原因が考えられます。(1)日常的な気分変動と症状との境界が、軽いうちは明らかでない。(2)(1)のような理由から病気の始まりがはっきりしない。(3)特定の症状がそろい、うつ病なのだと気付くシステムが日本では不十分。

 (3)についてですが、うつ病は身体症状が先に出ることがあるので、原因がわからなくて最初は内科を受診することが多い。身体症状にしか着目せず、うつ病を見逃してしまうと、睡眠薬や胃腸薬の処方だけということもおこりうるのです」。

 90年代におこなわれた研究によれば、自殺未遂で都内のある病院に救急搬送された方の調査から、なんらかの精神疾患であったと推測されるのは8割。しかし、実際に受診していたのはそのうちたったの4分の1。また、全ての精神疾患に占めるうつ病の割合は通常3割程度だが、自殺企図者ではそれが4割だったそうです。うつ病にかかっていると気付くことは、自殺予防という観点からもとても重要だと言えます。

 かかり始めに気付きにくいうつ病ですが、全く手がかりが無いわけではありません。例えば、以前は新聞をさーっと読めたのに最近はなぜか読めなくなったとか、休日には子どもと遊ぶのが大好きだったお父さんがごろごろして遊ばなくなった、など。望月さんがある日突然「死にたい」と言い出した時、パートナーである細川さんの場合はどうしたのでしょうか。「何もわからなかったけれど、彼は普段から『自殺は一番いけないことだと』言っていたので、これは絶対におかしいと気付きました」(細川さん)。うつ病のかかり始めを発見するには、今までとは異なるわずかな体調と行動の変化に注目すると良いのだそうです。

 国際的なデータからの推計で、日本には約600万人のうつ病患者がいると考えられています。しかし、その2割ぐらいしか精神科を受診していないのが現状です。かかり始めに気付きにくい病気とはいえ、受診率の低さには精神疾患に対する誤った認識など別の要因があるのかもしれません。

 「精神科病院に行きにくい場合には、総合病院の中の精神科・神経科や心療内科などの医療機関を利用するといいでしょう。最近は街中に“メンタルクリニック”とか“メンタルヘルス科”(大学病院等)という看板をかかげているところ等も増えています。

 周りの方が代わりに相談する場合は、病院だと保険の関係で受けられない場合がありますから、保健所の『こころの健康相談』等が良いでしょう。ご本人が大企業にお勤めなら、企業内診療所とか、カウンセリングルームに行くのも手です。

 うつ病は適切な治療で8割の人が半年ほどで良くなりますし、再発もありうるので、きちんとした医学的診断は受けた方が良いですよ」(熊谷さん)。

人生の夏休み

ページサンプル:人生の夏休み

 細川さんは本のあとがきにこう書いています。「日常生活はほぼ元通りになりました。けれども、ツレ自身は病気をする以前とは微妙に違う人間になりました。」。望月さんは頑固で神経質だったところがやわらぎ、細川さん自身もマイナス思考ではなくなったそうです。

 「夏休みは時間がとても長くて、子どもにとっては自分に向き合うための大切な時間でもあると思うんです。あと、宿題が出ますよね。うつ病で療養しているのはちょうどそんな感じ。何か宿題の答えを探さなくちゃいけないような。それが時にたえられないほどの重圧にもなってしまうのだけど」(望月さん)。

 厳しい状況は“本当にやりたいこと”をも二人に意識させたようです。望月さんは家事が大好きだったので主夫に、細川さんは描くことが大好きだったのでマンガやイラストの仕事で家計を支えることになりました。うつ病の経験は二人にとってはむしろ自分らしく生きるという人生の財産になったわけです。病というつらい経験を前向きに生きていくことにつなげる姿勢には見習うべきものがあるのではないでしょうか。

『ツレがうつになりまして。』

細川貂々(ほそかわてんてん)著 (株)幻冬舎 刊

『ツレうつ。』第2弾『イグアナの嫁』も好評発売中!

イグアナの嫁表紙

うつ病リターンワークコース

うつ病や神経症で休職中の方(都内在住または在勤)、これから復職を予定しているが自信がない方が対象のコースです。

注:既に退職した方には、ワークトレーニングコースもあります。

お問い合わせ先
東京都立中部総合精神保健福祉センター
電話:03-3302-7711
ファックス:03-3302-7839
ホームページ
外部サイトへ移動しますhttp://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/index.html

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