東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第31号(平成18年9月25日発行)

リレーTalk

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写真で輝く フォトセラピーで“いのち”を元気に

写真:酒井貴子さん

特定非営利活動法人 クローバーリーフ 理事
酒井貴子さん

デジタルカメラの普及にともなって、写真は従来よりいっそう親しみやすい創作・表現手段となりました。こうした身近なツールを、病気や障害を持つ人たちの元気回復に役立てることはできないか。自身の体験を機に写真と出会い「フォトセラピー(写真療法)」の活動に取り組む酒井貴子さんに、この新しい試みについてうかがいました。

 今から6年ほど前のことですが、検診で肺がんに似た症状が見られるという診断を受けました。経過観察ということになり、気持ちの面でもとても苦しい時期がそれから数年間続きました。当時は企業の人事担当で、かなり忙しい毎日を送っていたのですが、突然、自分の命の問題に直面することになって、正直とまどってばかりいました。写真を撮るようになったのは、友人が「何か自分が好きなこと、楽しいことをしてみたら?」と言ってくれたことがきっかけです。家にあった古い一眼レフカメラを持ち出して、風景写真を撮りに出かけて、自然の中で癒されながら、元気を取り戻していく自分が実感できたのです。写真にはそういう力があるということを、体験を通じて理解できたのだと思います。

 写真が持つ力は、私と同じような状況、またはもっと苦しい状況にある方たちにも、きっと届くに違いない。病気や障害を持つ人たちこそ、写真で元気になってもらいたい。そうした思いが現在の活動につながっているのです。これは私にとって、いわば写真への恩返しなのかもしれません。

 2004年にNPO法人クローバーリーフ(www.clover-leaf.org/)を2人の仲間とともに立ち上げました。写真事業のほかに食育事業と自然体験事業を展開し、「心と体の元気」をめざしています。仲間がいることは、それまでの仕事とは全く違う活動を始めた自分にとって、とても支えになることでした。

 写真事業として最初に始めたのは、長野県立こども病院の院内学級における写真を使ったワークショップ。さまざまな病気で長期治療中の子どもたちが対象です。写真愛好家のかたが、医師としてこの病院にいらしたことが最初のご縁でした。子どもたちは興味を持ってくれるだろうか、特に小さいお子さんは、機材(デジタルカメラ)を使いこなせるだろうか、自分の活動が子どもたちのために本当に役に立つだろうか…初めはやはり不安でした。ところが、驚くほど子どもたちは意欲的でした。あっという間にカメラの機能を使いこなし、こちらが唸るような素材をどんどん切り取ってくるのです。それをプリントして、みんなで出来映えを話したり、アルバムやカードを作ったり、コミュニケーションはどんどん広がります。子どもたちが見せる集中力と活動を楽しむ様子は、私たち大人を驚かせるばかりです。ある時、青空と白い雲ばかり撮影してくる子がいました。後でわかったのですが、その子はまもなく退院を控えていました。開放的になっていた気持ちが、見事に写真に表れていたのですね。

瞳のアップ写真

ワークショップで撮影された先生の瞳。

 NTT東日本関東病院(港区)にある緩和ケア病棟で、写真撮影のボランティアを始めたのは、その翌年のことでした。ここには末期がんなど、現代の医学では治癒が困難とされた患者さんたちが入院しており、私が希望される患者さんの写真をお撮りします。被写体になっていただくのはほとんどが女性。メイクアップのボランティアの方がお化粧を手伝って、患者さんは一番のお気に入りの服を着て、撮影に臨みます。カメラを向けて、ポーズをつくっていただくと、みなさん実に華やいだ笑顔を見せてくださる。表情が普段とは全然違っています。それは目の輝きであり、またいのちの輝きなのだろうと思います。

 こうした写真を使った活動は、受け入れていただく施設の側でも当初は不安をともなうものだと思いますが、院内学級でも緩和ケア病棟でも、また、その後始まった養護学校やフリースクール、老人ホームでも、素晴らしい方々との出会いがあって、これまで続けてくることができました。海外ではフォトセラピーは確立されつつある分野です。日本でももっと活動を広げて、写真が持つ力をみなさんに伝えていきたい。それが今の私の願いです。

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