東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第27号(平成17年9月1日発行)

リレーTalk

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最後までその人らしく エンゼルメイク

顔写真

エンゼルメイク研究会代表 作家
小林光恵さん

かつては家の中で大切にされていた、家族・縁者の看取りの時間。病院で亡くなる人が圧倒的に増え、やがて死は日常生活から隠蔽されたものになりました。最期の顔を大切にすること。その人らしい容貌に整えることは、亡くなられた方に対する最後のケアであるのと同時に、遺族がそこになんらかのかたちで関わることで、やがて看取りの時間へと変化していくことになります。今回のリレートークは、エンゼルメイク研究会代表の小林光恵さんを迎え、死化粧―エンゼルメイクの取り組みについて、語っていただきました。

取り組みのきっかけと活動

 私は以前、東京警察病院に看護師として勤めていましたが、亡くなった方のお顔の整え方というのは、ありあわせの、ちょっと粗末な化粧品類で、どの患者さんにも同じ色目で、同じようにお顔を整えてお帰りいただくというやり方を採っていました。そのときに、例えば、自分の親だったらこんなふうにやって欲しくないなと思ったことが、エンゼルメイクに取り組むようになったきっかけです。それから、いま多くの病院では、患者さんが亡くなった後、体やお顔を整える際には、ご家族にいったん部屋の外に出ていただいていると思います。それは、チューブなどの医療機材をはずしたりする場面を、お見せしない方がよいという判断だと思うのですが、ご家族がいない中で、相談もせずに看護師だけで整えることが、本当に正しいといえるのかどうか、…ちょっと抵抗があったんですね。以上の2点ともほとんどの病院が同じ状況にあります。

 かつては、例えばお年寄りが家で亡くなった場合というのは、家族が体をきれいにしたり、回りを囲んで、みんなでお顔を整えたり、お化粧をしたりということもあって、悲しいけれども和みがあるというか、とても濃厚な、いい時間だったのではないかと思います。

 私はその後、看護の職を退きましたが、この問題については、いつかきちんと取り組んでみたいと、ずっと思っていまして、ある時にほかの看護師たちは、エンゼルメイクのことをどう思っているのかアンケートを取ったら、みんなも全く同じように思っているということがわかったんです。

 一般的に「死化粧」というと、白粉と口紅をつけるという程度のイメージしかないので、誤解が生じないように、「エンゼルメイク」と改めて呼ぶことにして、2001年の1月にエンゼルメイク研究会を立ち上げました。メイクアップアーティストの小林照子さんをメンバーに迎え、モニター病院を設けたり、セミナーを開催するなど、普及のための活動をスタートしました。エンゼルメイクを行う場合、専用の化粧セットが必要になりますから、この7月に「エンゼルメイクセット」を完成し、発売しました。

エンゼルメイクがもたらすもの

 例えば長期にわたる闘病の結果、患者さんのお顔は著しく変化してしまっている場合もありますので、生前の面影を取り戻すために、クレンジングやマッサージを施して表情を和らげたり、ファンデーションで黄疸をカバーしたり、その人に合った口紅の色を選んだりと、そこには様々なスキルと順序があります。また看護師だけでなく、ご家族も一緒に行うことで、看取りの時間を持つことができます。闘病中の苦しげな表情が和らげば、お別れをするご家族や縁者の人たちは、その方の元気な頃のお顔を、最後の表情としてしっかりと記憶にとどめることができるのです。医療の立場から見れば、あくまで死後処置であったとしても、本来主人公であるべき、ご家族にとってみれば、重要なグリーフ(悲嘆)ケアであることはまちがいありません。6月に出版した「死化粧(エンゼルメイク)最期の看取り」(宝島社)でも、家族の最期をめぐる、数多くのエピソードに基いたストーリーを紹介させていただきました。

 それから、セミナーに参加される看護職の方は、ホスピスの方と救急外来の方がとても多くて、一見両極端なセクションですが、患者さんの死と日々向き合っている職場ということでは共通しています。エンゼルメイクは、看護の締めくくりという意味で、ナースに達成感をもたらしますし、ご家族だけでなく、看護に携わった人もまたそこで癒されているのです。

 死後ケアの問題は、保険診療の問題とも関係して、普及には壁もありますが、少しでも多くの病院で取り組んでもらえるよう、今後も活動を続けたいと思います。

小林光恵さんには、11月27日に開催される当センター主催の人権問題都民講座でより詳しくお話しいただく予定です。

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