東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第25号(平成17年4月1日発行)

特集

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すべての人が響きあう社会へ ユニバーサルサービスの提唱

顔写真

全国ユニバーサルサービス連絡協議会代表
井上滋樹さん

最近よく目にするようになった「ユニバーサルデザイン」という言葉。それは、すべての人にとって使いやすい製品や環境をめざす取り組みです。年齢や性別、障害の有無などにかかわらず、使いやすさを求めていくとどうなるか。そこにはユニバーサルな情報やサービスの提供が不可欠になってきます。昨年、著書「ユニバーサルサービス すべての人が響きあう社会へ」(2004年・岩波書店)を上梓された井上滋樹さんに、ユニバーサルサービスの考え方と取り組みについて伺いました。

ユニバーサルサービスの考え方

 まず、ユニバーサルサービスという言葉の定義ですけれども、私は、「より多くの人に公平な情報とサービスを提供すること」だと考えています。あらゆる人、障害の有無とか、年齢や性別などに関わりなく、必要とされる情報やサービスは、誰もが享受できるというのが、基本的な人権であるということです。

 一方で、ユニバーサルデザインは建築やプロダクトという、ハード面の改善を考え方のベースにしています。昨今ユニバーサルデザインの意味も広がる傾向にありますが、やはりモノづくりへの志向が強いと思うんですね。そこで、言ってみれば、ユニバーサルデザインの、そのソフトの領域、情報やサービスの領域での考え方が、ユニバーサルサービスだと言えると思います。

  ユニバーサルサービスが目指すところは、とても単純なことで、より多くの人が、同じように生活を楽しんだりとか、雇用の機会を得たりとか、または一緒に旅行に行けるとか、そういう、ごく当たり前のことです。実はそれができていないというのが、今の社会の現状だと思います。

 例えば車いすの利用者を例にとると、車いすの利用者が困るのは段差だけではありません。仮にエレベータやスロープを完備した施設でも、困っているときや、道案内をして欲しいときに、そこにサポートしてくれる人がいなかったら意味をなさないわけです。

 これは障害者だけの話ではなくて、高齢者であるとか、あるいは子どもとか、つまり、より多くの人のことを考えたときに、ハードの改善だけでは済まないことのほうが、むしろ多くなる。そこで必要とされるのがユニバーサルサービスの考え方です。

  なぜ今、ユニバーサルサービスが必要になってきているのかといえば、やはり、世界でもっとも高齢化率が高い日本だからだと思います。高齢者になれば、目や耳とか、身体的な部分が自然現象として衰えてくる。そこで、生活インフラというものも、そのニーズ、対象となる人に合わせてサポートして行かなければいけない。これは、われわれの社会が既に直面している課題です。

  視点を変えてみると、障害者というと、なにか特別な人を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は障害者の6割は高齢者に該当します。これはつまり、いずれはだれもが障害者になる可能性があるということでしょう。もはや高齢者、障害者は特別な存在ではなくて、私自身または私の家族、あなた自身やあなたたちの家族のことという、とても身近な存在だと言えます。つまり、そこに提供されるべきサービスとは、高邁な理論でも慈善活動でも何でもなくて、必要不可欠なこととして捉えなおさなければならないということですね。

  ただ、サービスやソフトの問題を強調すると、よく誤解されるんですが、ハードに関する配慮はもちろん必要です。つまり、ハードとソフトを別々にではなく、いわば両輪と考えればいいと思います。ハード面での改善が進みつつある状況に合わせて、情報やサービスの提供もより充実させて行くことが大切なのです。

  その際には、いろいろなサポートの仕方があると思いますが、中でもユニバーサルサービスというのは、膨大な資金の投下がいらないところに大きな特徴があります。

  ユニバーサルサービスの考え方が普及していくためには、私は「知識」と「意識」が備わっていなければならないと考えています。街中で困っている人たちをサポートしようとする「意識」を持つのに、大きな予算投下や、長い打合せは不要ですよね。

  それでは、知識というのは何かといいますと、私はいつも講演などの機会に参加者に次のように尋ねます。「街で視覚障害者が困っています。あなたはどうやって彼をご案内するかご存じですか?」と。ほとんどの方は知らないと答えます。また、聴覚障害者とのコミュニケーション手段といえば、すぐに思いつくのは手話ですよね、では手話ができないときどうするのですか?と尋ねると、よくわからないと返ってきます。

  これはイメージとして定着していると思うのですけれども、聴覚障害者というとすぐに手話を思い浮かべる。実は聴覚障害者で手話ができるのはおよそ15%の方だけです。だから、それ以外に筆談であるとか、ゆっくりはっきりしゃべるとか、そういうコミュニケーションがあるということを知っているだけでも大きな違いがありますよね。

クロックポジションで伝える例のイラスト

 他にも、例えば車いすを利用している人の誘導の仕方だとか、また、視覚障害者と会話をするときなどに便利な、クロックポジション(下のイラスト参照)による位置や方向の指示だとか、もちろん僕自身も教わったことですけれど、具体的な知識がないことが、そうした人たちとのコミュニケーションを阻害している。自分の兄弟や親、友人のような感覚で接することができなくなっているわけです。

  こうしたことが知識として備わって、障害者とのコミュニケーションが広がってくれば、彼らが誤解されたり、偏見を持たれたりすることは少なくなっていくと思います。これまで学校や職場で、一緒に過ごす機会も乏しく、接し方を教えてこなかったことも、知識が普及していないことの一因でしょう。もちろん、そこにいろいろな議論はありますけれども、なるべく、子どもの頃は一緒に学ぶ機会を増やしていくとか、あるいはユニバーサルサービスに関する内容を総合学習で取り入れるとか、そういうことをいち早くやってほしいと思います。そうすれば、高齢社会において、自分自身が困ったときに、何年後か、何十年かしたときに「助かったなあやっておいて」となるかもしれません。

実際の取り組み事例

これは、都内のホテルの事例(京王プラザホテル・新宿区)ですが、ユニバーサルサービスに基づく取り組みによって高齢者や障害者の利用者が増えてきているそうです。そこは、1980年代からすでに、いわゆるバリアフリーの取り組みを始めていた先進的なモデルですが、その後、取り組みを進めた結果、現在さまざまな接客サービスを揃えた客室として、「ユニバーサルルーム」が設けられています。

  ユニバーサルルームには、聴覚障害に対応した電子筆談機や、視覚障害者がルームサービスを利用するときに使うメニューの読み上げ装置。車いすのまま来訪者を確認できる液晶ドアスコープといった機器類に加え、スロープや開口幅拡大など、室内移動を楽にする工夫。また、起き上がり補助装置付きベッドなどの調度品が備えられています。
階段を車いすを押して上がる手順の説明イラスト。

  ただ、こうした装置類だけでなく、接客スタッフ以外の職員も含めた研修や、顧客ニーズを詳細に調査し、それを生かして行く姿勢によって、サービスというものの幅を広げて行こうとしているところに、ユニバーサルサービスの真髄があります。このユニバーサルルームは、障害者や高齢者の専用客室ではなく、同行者も一緒に宿泊でき、また通常の予約も受けているため、稼働率が下がることもなく採算性も高いそうです。

  それから、これは青森県の商店街の事例(新町商店街・青森市)で、地域住民の高齢化への対応として、300円を払えば買った物を宅配するというサービスを始めたのですが、この集配作業には、かつて精神に障害を患ったことがある人たちが関わるようになっています。これを思いついた人は、商店街でこうした人たちとコミュニケーションをとっているうちに、ワークシェアリングさえすれば、彼らは十分働けると認識したそうです。

  この結果、障害があった人たちは仕事と交流の機会が得られ、高齢者は、商店街で手ぶらで買い物ができるようになりました。これで宅配事業で利潤が上がったとなれば、申し分なかったのですが、残念ながら収益の面ではまだ苦戦が続いているようです。しかしこうした取り組みはどこの町でもやろうと思えばできることだと思います。

  私は広告代理店に勤務していますが、去年祖母を亡くすまで、四世代7人家族で暮らしていました。あるとき、仕事で製作した広告を祖母に見せたところ、字も小さくて分からない言葉が多く、読めないという返事が返ってきました。いまや日本の成人人口の半数以上は50歳以上になっているのに、広告の感覚は若者向けのものが大多数です。ここには、情報の送り手と受け手の間にミスマッチが生じていると思います。

  企業が開発する様々な製品にしても、ユニバーサルな商品が出ていても、それを買いにいけなければ意味が無いし、そのよさが伝わらなければ意味が無いわけですね。商品の情報や、それを伝えられる手段というサービスが揃ってこそ、本当の意味でのユニバーサルになるのではないでしょうか。そのように考えると、企業がユニバーサルサービスに取り組むということは、「企業の社会的責任」そのものだということもできるように思います。

  この4年ほどの取り組みの中で、ユニバーサルサービスの普及のためには、個人の活動では限界を感じるようになり、昨年、全国ユニバーサルサービス連絡協議会を発足させました。全国には、ユニバーサルサービスという言葉を掲げていなくても、数多くの地域での実践者の方々がいます。うまくいった事例もあれば、失敗例もある。それらを検討するとともに、実践者たちのネットワークを作れば、活動の幅はよりいっそう広くなります。

  それぞれの地域における取り組みを重視しながら、ネットワークを広げていきたい。これが私の当面の目標です。

全国ユニバーサルサービス連絡協議会

マーク・Universal Service どなたにもユニバーサルなサービスを

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