東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第23号(平成16年9月1日発行)

リレーTalk

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児童虐待防止法 法律改正で何が変わるのか

児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法・平成12年)は、虐待の早期発見・保護のシステムを整備しましたが、予防から子どもの自立支援までを継続的に考える視点に欠けたものでした。今年4月に公布された同法の改正法が、この10月に施行されます。

現行法のどこに問題があったのか。虐待はなぜ起こり、どのような傷跡を残すのか。私たちにできることは何か。児童虐待を描いて大きな波紋を呼んだコミック『凍りついた瞳』の原作者としてこの問題を社会に警告し、法改正にも深く関わった椎名篤子さんにお話をうかがいます。

法改正で何が変わるのか

 今回の改正案については、これまで国や関係機関に働きかけを行ってきた立場から言えば、全体的に前進を見たと考えています。

 その大きなポイントとしては、予防または、早期の段階における虐待の発見・保護から、虐待を受けた子どもへのケア、その後の自立支援までを、法律の目的として、また園や地方公共団体の責務として、明確化したことが挙げられます。

  とくに自立までの継続的な支援の問題は、現行法では抜け落ちていた視点です。私がこれまでに関わった方の中には、虐待で受けた傷が癒せないまま、苦しみ続けている67歳の方がいらっしゃいました。すでにその年齢になっていても、きちんとケアされる機会が得られなければ、虐待を受けた自分というものが、心の中に住み続けることになります。法律の精神が、子どもたちの「心身の成長」を謳う以上、自立支援は当然取り組まれなければならないプロセスです。

  他にも細かい点を含めて、評価されるところは多くあります。

  虐待の定義の中に、「保護者以外の同居人」による虐待行為が加えられたことや、虐待の通告義務について現行法では、発見者は、虐待を「受けた児童」を通告するとされていたのが、改正法では虐待を「受けた“と思われる"児童」と変更されたことなどは、現実の事例が反映された結果だと思います。こうした違いでも、早期発見には効果があるはずです。

  また、そうした中で学校、教職員、福祉施設等が、虐待の早期発見から自立支援までのプロセスで果たすべき役割を位置づけたこと、さらに、虐待行為が子どもたちに対する「人権侵害」であることを明記した点なども大きく変わった部分でしょう。

  ただ、私たちが主張したことの中で、虐待を行った人に対する、裁判所によるカウンセリングの受講命令などの導入は、残念ながら検討課題として残されました。また、子どもの保護をめぐって、親権の一時停止という民法まで含めて議論しなければならない大きな問題も、課題として残されたままになっています。

虐待の現状と今後の取り組み

 児童虐待の現状に目を移すと、この2,3年は虐待の処理件数が横ばいになってきました。それは通告件数が激増した反面、児童相談所が処理できる能力は限界に達し、飽和状態を迎えていることを意味しています。

  では、実際の傾向はどうかと言いますと、二つの面において現在も増え続けていると思います。一つには、児童虐待が社会間題化したこと。要するに「児童虐待」という言葉が与えられたことによって、いままでは隠れて見えなかった虐待が顕在化してきたというわけです。そしてもう一つは、実際の虐待そのものの数が増加していることです。

  こうした現状を改善していくためには、引き続き子ども虐待に関係する全ての法律を整備していく努力が欠かせません。その際、子育てに苦悩する親に寄り添う視点を忘れてはいけません。私が所属している「児童虐待防止法の改正を求める金国ネットワーク」では防止法が施行された11月20日を「児童虐待防止の日」と定めるほか、11月を「児童虐待防止月間」とするよう、関係者に働きかけているところです。

  核家族化によって、いわゆる家庭力、家族力が落ち、子どもを育む力が衰えたことに虐待増加の一因があることは明らかです。ただ、そこから変えていくのは、それこそ膨大な時間が必要ですし、ひょっとしたら「子どもは宝」と思える社会はもう取り戻せないのかもしれません。したがって、まずは子どもや家族がいつでもSOSを出せるような社会作りが急務だと考えています。そして社会全体で援助システムを作っていくことで、少しでも児童虐待を減らしていけるよう、これからも取り組んでいくつもりです。

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