東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第22号(平成16年6月1日発行)

リレーTalk

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性同一性障害  「特例法」の施行と今後の課題

写真:はりまさん

精神科医・東京家庭裁判所医務室技官
針間克己さん

性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」)が公布から1年を経て、この7月に施行されます。

そこで今回は、精神科医であるとともに東京家庭裁判所の医務室技官として早くからこの問題に関わってこられた針間克己さんをお招きして、性同一性障害とはなにか、特例法制定の背景と内容、そして今後の課題などについて語っていただきました。(同法の内容についてはインフォメーションをご覧ください。)

 人間のセクシュアリティを構成するおもな要素は、身体的性別であるセックス、心理的性別であるジェンダー・アイデンティティ、性的魅力を感じる対象による性指向(同性愛・異性愛・両性愛)、社会的な性役割(男らしさ・女らしさ)などがあります。このなかで、セックスとジェンダー・アイデンティティが一致しないために苦悩している状態が、医学的疾患としての「性同一性障害」です。

 診断基準からその特徴を挙げると、自らの性に対する持続的な不快感と、反対の性に対する強く持続的な同一感が見られることなど、端的に言えば心の性と体の性が不一致で、そのことに苦しんでいる状態だといえるでしょう。

 性同一性障害に悩む人は、もちろん以前から存在していたのですが、1998年に埼玉医科大学が公に知られる形で性別適合手術(いわゆる「性転換手術」)を行った頃から、社会的な関心が急速に高まってきました。それにともなって医療機関で受診する人も増加し、現在ではのべ2000人を超える受診者がいると推定されています。こうして性同一性障害の問題が広がりを見せるにつれて、新たな問題がクローズアップされてきました。それは戸籍上の扱いです。

 性同一性障害の場合、治療がある程度進むと、社会生活上は「心の性」で暮らせるようになります。ところが、いったん戸籍に基づく身分証明が必要な場になると、そこに様々な困難が生じてしまう。例えばパスポート記載の性別と外見の違いから入国審査でトラブルになったり、また就職の際に性同一性障害であることを告白して、不利な扱いを受けたという話もあります。

 こうした問題は、身体的な性別変更、つまり医療による性別適合だけでは解決ができません。

 欧米の多くの国では、出生登録書の訂正という形で戸籍の変更が認められてきています。一方、日本では、戸籍変更の裁判もおこされましたが、結果的にほとんど認められなかったこともあって、立法によって解決されることが検討されるようになりました。こうしたタイミングと世論の盛り上がりを受けて、法案が審議され、今回の特例法が制定されたのです。

 この法律の対象となり、戸籍上の性別表記の変更を家庭裁判所に申請できるのは、2名以上の医師から診断を受けた性同一障害者が、5つの要件(インフォメーションに別記)を満たす場合です。

 当事者の立場からすれば、こうした要件は、戸籍変更へのハードルとして意識されてしまうかもしれません。他から見れば、性同一性障害なのだから、結婚もしていないだろうし、子どももいないだろうと思い込みがちですが、実際にはかなりの既婚者も、子どもがある方もいます。また、様々な理由で性別適合手術を受けていない人も存在するのです。

 特例法の施行によって、性同一性障害にともなう社会的・心理的苦痛が以前より軽減されることは間違いありません。それでも対象から外れてしまった人々の課題は、依然として残されたままです。もちろん個々の要件にはそれを設ける理由がそれぞれあって、例えば「現に子がいないこと」という第3要件は、当事者の問題とは別に、その子どもの福祉に配慮した結果盛り込まれたものになるのですが、当事者団体などを中心に、これでは厳しすぎるという意見も出されています。

 そうした意味も含めて、法律の公布に際しては、3年後をめどに見直しを図るという附則が設けられています。

 いずれにしても、性に関わる差別をなくしていくために、今後私たちはセクシュアリティが個人の人格と深く結びついていることを、よりいっそう深く認識していかなければなりません。そして一人ひとりの性のありようを尊重する意識を持つことが、ますます必要になってくると言えるでしょう。

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