東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第13号(平成14年3月18日発行)

リレーTalk

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DV被害女性たちが自由に生きていくために

野本さん

女性ネットSaya-Saya」共同代表・セラピスト
野本 律子さん

ここでは、さまざまな分野の方々に人権についてのお考えを伺います。

ここ数年、配偶者への暴力は「ドメスティック・バイオレンス(DV)」として知られるようになりました。今回は都内で、DV被害女性のための就労支援を行っているセラピストの野本律子さんにお話を伺いました。

 私は自分がDVの体験者なんです。お酒を飲むと暴れるという夫で、結局、1985年に結婚生活14年で離婚しました。その後、市民団体「AKK(アディクション問題を考える会)」のボランティアスタッフを経て、精神科医の斎藤学先生が代表を務めるクリニック「家族機能研究所」で働くようになりました。

 「AKK」でも多くのDV被害女性を見てきましたが、クリニックでは夫からの暴力だけでなく、子どもの頃、信頼していた身近な人から性虐待などの被害を受けたという人にたくさん出会いました。まず、驚いたのは彼女たちの身体の傷つき方です。特に子宮や卵巣が悪い人や子宮筋腫、乳ガン、子宮ガンの人が多い。そして、精神的にもとても傷ついていました。うつ状態がひどく、クリニックに数年通ったからといって、フルタイムで仕事ができるような状況ではないんです。

 そんな女性たちを見てきて、クリニックで一緒に働いていた松本和子さんと「飲食店を拠点にして、女性の心のケアや自立支援をしたいね」という話から生まれたのが、「喫茶・レストランSayaー Saya」と「女性ネットSaya ー Saya」です。「Saya(サヤ)」はインドネシア語で「私」を意味します。

 「喫茶・レストランSaya ー Saya」はクリニックに通っていたり、DVの自助グループに入っている被害女性たちの居場所になっています。仲間がいるというのは、とても大切ですから。そして、一番の目的は就労支援です。働くためには技術を持っていることだけでなく、うまく対人関係を築けることも大切です。でも、長い間、虐待を受けていると、人とのコミュニケーションがうまくとれなくなってしまうんですね。ですから、ここでスタッフやお客様と接することが対人関係を築く訓練になるのです。

 すでに、ここから何人かが巣立っています。先日も「児童館に勤めることが決まった」と、うれしい連絡がありました。店では3人ぐらいしか働けないので、どんどん巣立っていってほしいと願っています。。
被害女性たちはシェルターがあり、自立支援のプログラムがあって、初めて家を出ることができるのです。今まで専業主婦だった人が仕事に就いても、子どもと生活していくのは難しいですよね。実際、夫の暴力から逃げてきても、結局、戻る人が多いんです。彼女たちにとっては、1カ月に1度、殴られるのを我慢することのなれている生活の方がイメージしやすいのです。でも、就労のための訓練と仕事や住むところが保証されているのなら、彼女たちは家を出ます。暴力を受けているのに、1人で生きていくことを選択できないというのは悲しいことです。

 「女性ネットSaya ー Saya」の方では、相談業務や講演会、勉強会などを行っています。やっと、DVという言葉が知られるようにはなりましたが、まだ偏見もあります。体験者や体験者に近い者たちが話をすることで、イメージが変わるのではないかと思っています。

 DV問題を考えたとき、被害者プログラムだけでなく、男性が自分の怒りを解放したり、体験を語り合える加害者プログラムが大切だと思っています。
”男は強くなければいけない“というようなジェンダーに関わる古い意識を変えていくことで、ようやく男性も女性も自由に生きられると思うのです。

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