東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第10号(平成13年6月29日発行)

特集

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人間のいのちと人権を守る社会づくり -牟田悌三さん-

今年は「ボランティア国際年」です。そこで、俳優として活躍される傍ら、20数年前からさまざまなボランティア活動に精力的に取り組んでこられた社会福祉法人世田谷ボランティア協会理事長 牟田悌三さんにお話を伺いました。

PROFILE

写真:牟田さん

牟田悌三(むたていぞう)さん

昭和3年、東京生まれ。北海道大学農学部卒業。在学中にNHK札幌放送劇団に入団し、以後、ドラマ「ケンちゃんシリーズ」をはじめ、テレビ、ラジオで活躍。地元世田谷の中学校のPTA会長を務めたのをきっかけに、ボランティア活動に参加。東京農業大学で「ボランティア論」の教鞭をとるなど、多方面で活躍。平成12年「牟田悌三と世田谷ボランティア協会」の活動が、第34回吉川英治賞・文化賞を受章。著作に「大事なことは、ボランティアで教わった」がある。

今、不足が不足している

ボランティアを始めたきっかけは何だったのでしょう。

 今から24、5年前のことです。私の子どもが通っていた中学校で、思いがけずPTAの会長を引き受けることになってしまったんです。それまで、学校や子どものことは何も分かりませんでした。ところが、PTAに入って、子どもを通して社会を見たとき、いろいろな問題があることに気づきました。しかも、大人の側にこそ反省すべき点がたくさんあったんです。

 当時は非行や学校、家庭での暴力が問題になっていて、親や学校は管理を強めることで、子どもたちを静めようという空気が漂っていました。でも、私は「それは違うんじゃないか。今はあまりお腹もすかなくなり、意欲も無くなって、無感動や無関心、無表情につながっている。不足が不足しているのではないか。それよりも、子ども自身が何かを感じたり、考えたりするチャンスをあげるべきだ」と思ったんです。そうして始まったのが、中学生と障害を持った中学生の交流の会「障害のかきねをはずそう会」です。

 会の活動は主に土・日曜日に行い、6カ月間、班ごとに自由に交流をしてもらいました。そこで、子どもたちは見事にいろいろなことを感じてくれました。印象的だったのは、野球をやった班でした。その班の一人が肢体不自由のお子さんで、彼がどうしても野球をやりたいと言ったそうなんです。それまでは障害を持った友達しかいなかったから、やっと野球ができると思ったんですね。でも、手にも障害を持つ彼は、なかなかバットにボールが当たらない。健常者の子どもたちも、どうすればいいか困ったそうです。すると、一人の子が家からテニスのラケットを持ってきて、バット替わりにすることを思いついたんです。ところが、今度は打った後、走るのはどうするかということになったんです。初めは彼が打ったら代わりの人が走っていたんですが、打った本人がつまらなそうな顔をしているのに気づいたんですね。すると、誰かが「這ってもらえばいいじゃないか」と言い出した。大人では絶対に生まれない発想ですよ。でも、子どもたちは躊躇することなく、賛同したんです。もちろん、1塁までは遠すぎるので、途中に引いたラインまで這ってもらうことにしました。他にもうまくいかないことがあるたびに皆で知恵を出し合い、ひとつひとつルールを作って、ゲームを進めたそうです。

 私自身、この会を通じて、子どもたちからいろいろなことを教わりました。そして、ボランティアとは何だろうと考えるようになったのです。この出来事が私のボランティアの原点です。

自分があげたら、相手からももらえばいい

ボランティアに対する考えを聞かせてください。

  私が20数年間やってきた活動から見つけたのは、ボランティアは奉仕とは違うということです。奉仕というのは、相手に何かをして差し上げること。つまりワンウェイなんですね。でも、それでは相手が「いらない」と言ったときに、「せっかく、して差し上げているのに」となってしまう。それでは続くわけがありません。
実は私も最初はそういう風に思っていて、疲れてしまったんです。そして思い当たったのが「自分があげたら、相手からももらえばいい」ということでした。

 きっかけは知的障害を持つお子さんと歩いていたときのことです。彼は立ち止まったりして、なかなか進まない。私は自分のペースに巻き込むのに必死だったんですが、ハッと気づいたんです。そうか、立ち止まっていても人間歩いていけるんだと。そして、立ち止まってみたら景色が良く見えて、こんなに美しいものがあるのになぜ気づかなかったんだろうと思いました。今まで関係ないと思っていたことも、関心を持って見られるようになったんですね。私の価値観が明らかに変化してきたんです。そして、これこそボランティアだと思いました。つまり、ボランティアとは自己犠牲ではなく、自己啓発であり、自己実現であり、自分のための体験学習だと思ったときに悩みがとけました。

 以前、大学でボランティアの講座を持っていたとき、レポートに「ボランティアというのは偽善的なことだと思っていた」と書いた学生が非常に多かったんです。小・中学校、高校では、そんな風に思わせてしまうボランティアしかやっていないのだと思いました。「こんなことをやったからすごい」ということではないんです。先生方は、彼らがそこに行って何を見つけたのか。何を発見できたのかということを評価してほしい。そうすれば、ボランティアは子どもにとって大きな学習になるはずです。

 あげる人が相手を見下ろすのではなく、もらう人も相手が気づかないことをサジェスチョンする。そうすれば、対等な人間関係に近づくことができます。ワンウェイではなく、ツーウェイにすればいいのです。

牟田さんの呼びかけで実現した「エフエムせたがや」などの活動について教えてください。

  世間では、ボランティアというのは福祉に関わることだと思われてしまっています。でも、福祉以外にもボランティアはあるはずです。世田谷ボランティア協会では、あらゆるボランティアを受けとめていこうと考えました。

 本来ならば、協会の仕事は、ボランティアをやっている人たちを支援していくことです。ところが、なかなか動きがない。そのため、私が自分で企画を持ち込んで、世話人みたいな形でやってきたこともいくつかあります。
私たちの協会がすべきことは、やはり、街づくり、コミュニティづくりなんです。地域が機能しなければ、災害時の対応や福祉、教育もうまくいくはずがありません。昔はコミュニティというものがあったけれど、今はその機能が失われてしまっています。個人主義を『個々が勝手に生きる』ことだと履き違えている人も多い。本来、一人ひとりの人権をお互いに大切にしようというのが個人主義です。

  でも、PTAの会長をやってみて、まず、PTA(Parent-Teacher Association)が、実はMA(Mother Association)になってしまっているということが分かりました(笑)。つまり、母親だけの会になっているんです。これでは地域が機能するわけがない。まず、お父さんを巻き込むために2年間いろいろやってみたのですが、振り向いてももらえませんでした。そのときの無力感が、むしろ、いろいろな活動を始めるエネルギーになりました。

  その一つがお父さんのための地域活動「お父さんパワー、いまが見せどき!」で、キャッチフレーズは「ハナキンの夜、子どもや奥さんに尊敬される方法教えます」です。活動メニューを「趣味応用タイプ」「仕事応用タイプ」、「地域参加タイプ」「国際交流タイプ」の4タイプに分けて、参加しやすくしました。今、一番にぎやかなのは、外国人にマンツーマンで日本語や日本の文化を教える会です。日本のことをきかれて答えられないときは、「あなたの国ではどうしているの?」と質問する。そして、自分も他国のいろいろな文化を学べるんですね。これもツーウェイなんです。

 そして、平成十年には、コミュニティFM「エフエムせたがや」を開局させることができました。コミュニティづくりを考えていく中で思いついたのが、FMをうまく使えないかということでした。そんなことを考えていたときに、阪神淡路大震災が起こりました。その後、震災でFMが機能した教訓から、出力が10ワットまで認可されたんですね。おかげで世田谷全域をカバーできるFM局をつくることができたのです。「エフエムせたがや」では、日常は地域のリポートや問題を扱い、災害時は世田谷全域の情報が入るようになっています。毎年、特派員を募集しており、今は第3期生たちが活躍しています。

「自分を受け止めてくれる人がいる」と子どもたちに伝えたい

全国に「チャイルドライン」が広がるきっかけとなった「せたがやチャイルドライン」についても聞かせてください。

  子どもの問題からスタートしたこともあり、初めは協会とは別に「世田谷こどもいのちのネットワーク」をつくりました。その活動の中で生まれたのが「せたがやチャイルドライン」です。ロンドンで、民間団体によって15年以上続けられている「チャイルドライン」を参考にしました。

 これは18歳までの子ども専用の電話ですが、いわゆる電話相談ではありません。電話の受け手に自分の状況を話すことで、子どもたちが自分を考える機会をつくることが目的です。主導権は子どもにあります。そして、受け手の背後にはスーパーバイズする支え手が配置されます。

 もし、これが行政の仕事だったら、問題を解決することが求められるでしょう。でも、「せたがやチャイルドライン」では、民間なので問題を解決するところまでいかなくてもいいんです。それよりも、子どもたちに『この世の中に自分をきちんと受け止め、認めてくれる人がいる』と伝えたい。子どもたちに今、必要なのは、そういうメッセージです。スタート時、2週間で1000件以上の電話をもらいました。

 電話の受け手はトレーニングを受けたボランティアです。そして、彼ら自身、子どもたちの話を聞くことで、気づかされることが多いんですね。まさにツーウェイなんです。

 昨年からは「子どもの日チャイルドライン」が始まるなど、動きが全国に広がりました。電話を常設する団体も年々、増えています。私は99年に発足した非営利団体「チャイルドライン支援センター」の代表理事として、電話の受け手となる団体の支援を行っています。

ボランティアは受け身ではできない

最後に「ボランティア国際年」にあたり、メッセージをお願いします。

  いろいろな問題が山積みの世の中だからこそ、ボランティアの活躍の場はたくさんあるはずです。ところが、協会に来られる方の中には、「何をしたらいいか分からない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。私は「分からない」というのは悲しいと思うのですが、来てくださるだけいいんです。何をしたらいいか分からないけれど、行動も起こさないという人が非常に多いんです。でも、ボランティアというのは、そういう受け身な姿勢ではできません。

 私はボランティアの目指すところは、人間のいのちと人権を守る社会づくりだと思います。そして、いのちを考えれば地球環境を守っていくことに行き着く。人権を守ろうとすれば対等な人間関係をつくらねばならない。ところが、我々はそうした問題を先送りしている状態です。

 科学文明の発達で、人間は果てしなく楽をしようとしてきました。でも、このままでは、人間が本来持っているものを失っていくばかりです。人間にとっての重要な問題に、手間ひまをかけて関わっていかなければいけません。それを担当するのがボランティアなのです。

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