TOKYO人権 第64号(平成26年11月20日発行)

インタビュー性暴力の被害者がどん底から立ち上がるために

 性暴力とは、レイプ(強姦)だけでなく、性虐待、痴漢、児童ポルノなど、性的な要素を含む暴力行為のことをいいます。性が関係しているため、さまざまな偏見を持たれやすく、そのことが、本人に訴え出ることをためらわせ、被害者の苦しみをいっそう深刻にしています。フォトジャーナリストの大藪順子(おおやぶのぶこ)さんは、アメリカに住んでいたとき、レイプの被害に遭いました。他の多くの被害者が声をあげられずにいるのを知り「性暴力サバイバーたちの声を伝えたい」という思いから、彼らの姿を撮影し、世に発信してきた大藪さんに、お話をうかがいました。

PROFILE

大藪 おおやぶ順子 のぶこさん

写真:大藪 順子さん

1971年、大阪府生まれ。フォトジャーナリスト。米国にて新聞社に勤務していた1999年、就寝中に自宅に侵入した暴漢にレイプされ、PTSDに苦しむ。2001年、「Project STAND: Faces of Rape & Sexual Abuse Survivors Project」を立ち上げ、男女70人の性暴力被害者たちを撮影・取材した。同プロジェクトは、米国上院議院ビル他、全米各地で展示され、大きな反響を巻き起こした。外国人であるにもかかわらず、米国会の性犯罪防止会議にパネリストとして招かれたほか、米政府の犯罪被害者援助機関のテレビCMにも出演。全米性暴力調査センターの名誉理事、幼児虐待防止対策機関の役員等を歴任した。2008年、やよりジャーナリスト賞受賞。2011年度シカゴコロンビア大学卒業生賞受賞。2013年に家族と帰国し、現在は、ニュース系サイト「ハフィントンポスト」に不定期執筆。国内講演多数。著書に『STAND 立ち上がる選択』(いのちのことば社)他。

性暴力被害者はどのような現実に直面するのですか?
写真:大藪 順子さん撮影/細谷 聡

 被害に遭った1999年、私はアメリカで新聞社のカメラマンとして働いていました。治安の良い地域の、ちゃんとしたアパートに住み、しっかりとカギをかけて、夜いつもどおり寝ていただけ。そこに突然、赤の他人の犯人が侵入し、私をレイプしたのです。それまでは、自分はそういうこととは無縁だと思っていました。「性暴力は治安の悪い地域で起こるもので、被害者は隙のある人だ」という偏見があったのです。

 被害に遭って、それまで築いてきた自分自身の全てが崩れ去ったように感じました。仕事もうまくいっていてまさに絶好調だったのに、あの晩一瞬にして、どん底に突き落とされたのです。性暴力は、被害者のアイデンティティを大きく傷つけるのです。

 被害者をさらに待ち受けるのは、性暴力に対する偏見です。私の場合は「被害者には非がなく、犯人が100%悪い」と社会が受け入れやすい状況だったから、偏見によって傷つけられることはそれほどありませんでした。しかし、多くのケースでは、自分自身を失い不安と恐怖と悲しみの中で、まるで被害者の方が悪かったかのような、心無い言動にさらされ「自分はもう人前には出られない恥ずかしい存在なんだ」という意識を植え付けられてしまう。それは、被害者の多くが泣き寝入りしてしまう現実や、実名で顔を出す人がとても少ないことを見ても明らかです。

性暴力被害者を守るためにどんな制度が必要ですか?
性暴力被害者の写真プロジェクトの一枚

© Nobuko Oyabu

ダニエル・ロドリゲス
カルフォルニア州ロサンゼルス市

5歳の時の写真を手に取り、当時父親から売春婦のような格好をさせられて性虐待を受けた事を語ってくれた。隣に写っているのは、同じ5歳の従姉妹。従姉妹は無邪気な5歳児に見えるが、5歳のダニエルはすでに無邪気さを失ったかのように見える。児童への性虐待は、被害者から子どもらしさを奪う。

 アメリカには、SART(Sexual Assault Response Team:サート:性暴力被害者対応チーム)という、支援の仕組みがあります。医療、警察、カウンセラー、弁護士等の専門家で構成され、被害者を包括的にケアします。異なる分野の専門家が横でしっかりとつながって連携し、情報を共有しているため、被害者がたらい回しにされたり、思い出すのもつらい被害状況について、何度も繰り返し話す必要はありません。警察で一度聴取を受ければ、それが裁判での証言の代わりにもなるのです。また、SANE(Sexual Assault Nurse Examiner:セイン:性暴力被害者支援看護職)という専門の看護師がいて、被害者が病院に運ばれるとすぐに駆けつけ、心の状態にも配慮しつつ、証拠採取をします。

 アメリカでSARTやSANEが機能しているのは、被害者が勇気を持って声をあげ、その必要性を訴えたからに他なりません。また、国が認める仕組みなので、それに携わる人たちにきちんとした報酬があることも、うまく機能している理由の1つです。

 私は、被害直後から適切な支援を受けることができたからこそ、心の回復も他の被害者に比べて早く、金銭的負担もせずに済みました。こうしたシステムが日本にも必要です。実は日本にもNPOが養成した数百人のSANEがいるんです。しかし、公に認定されていないため充分に機能していません。被害者が精神障害を負い、引きこもったり自殺したりすれば、それは国の経済的損失にもなるのですから、支援を担う人たちに行政が補償をしていくのは、当然のことでしょう。

性暴力被害者を撮影した写真プロジェクトについて話してください。
性暴力被害者の写真プロジェクトの一枚

© Nobuko Oyabu

リンダ・ジャーモン
カルフォルニア州ロサンゼルス市

養女として姉妹3人で引き取られた家の養父から性虐待を受けて育つ。その被害体験により、様々な精神障害を抱えて生きてきたが、「自分の二人の娘は、自分が遭った性虐待からは守ってきた」と、彼女は胸を張って言う。この言葉の裏には、彼女が唯一知る家族との離別があった。彼女の戦いは孤独との戦いでもあっただろう。被害に遭ったことにより、自分の家族に代々受け継がれてきた虐待のサイクルを自ら止めるために立ち上がるサバイバーは多い。

 アメリカでは、被害に屈することなく立ち上がり、人生を自分らしく生きようとしている人たちをサバイバー(survivor:生存者)と呼びます。

 私は、仕事にはすぐ復帰できましたが、長い間、被害の記憶に苛まれました。PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)に打ちのめされそうになるたびに、「どうして自分がこんな目に」とやり場のない思いに、どうにかなってしまいそうでした。しかし、さまざまな人たちに支えられて、次第に「失ったからこそ得られるものもあるはず」と考えられるようになっていきました。そして、性暴力サバイバーの一人として「視点を変え、視野を広げれば、新たに得たものの大きさに気付く。被害者にも幸せになる権利があるんだ」ということを伝えていくことが、自分の使命だと思うようになりました。

 以前は、アメリカでも性暴力被害者が自分の顔や名前を公にすることはほとんどありませんでした。私は報道の仕事をしていたから、陰で泣いている被害者の素顔を、写真を使って表に出すことができたら、きっと孤立している人たちの助けになるに違いないと思いました。それで始めたのが「STAND:性暴力サバイバー達の素顔」という写真プロジェクトです。

 最初はどれほどの人が呼びかけに応えてくれるか分からなかったけど、始めてみたら大勢の人たちがカメラの前に立ち、その思いを語ってくれました。この人たちが偏見に立ち向かうため、どれほどの勇気を奮い立たせて写真撮影に臨んだのか、想像してください。被写体には男性も何人かいました。もしも「男性も性暴力の被害者になりうる」ことを意外に感じたとしたら、それがたくさんある性暴力への偏見の一つです。

 この写真プロジェクトは、アメリカ上院議院ビル他、全米各地で展示され、非常に注目を浴びました。北米での性暴力被害者に対する意識を大きく変えることに寄与したと思います。

性暴力を減らすには、何が必要だと思いますか?
性暴力被害者の写真プロジェクトの一枚

© Nobuko Oyabu

デイビッド・ニューソン
ネブラスカ州オマハ市

子供の頃、毎夏従兄弟の家に泊まりに行っては年上の従兄弟から性虐待を受けたが、誰にも言えずに大人になった。自分がゲイだからこんなことが起こると思い込み、自分を責め続けながら生きてきたという。

 社会と個人の意識を変えていくことが必要です。たとえば「痴漢に注意」というポスターがありますよね。でも、どうやって注意すればいいというのでしょう? まるで「痴漢される側が不注意だから悪い」みたいです。でも最近やっと「痴漢は犯罪です」という表現に変わってきました。「被害者の不注意が原因だ」と思うのではなく「犯人が絶対に悪い。性暴力は犯罪だ」と判断できる人や社会を育てる必要があります。

 学校教育も重要です。男女を問わず「自分の権利」を教えていく必要があると思います。私の子供がアメリカで通っていた小学校では「友達が手をつなごうと言ったときに嫌だと思ったら、NOと言っていい。それは『あなたが嫌い』という意味ではなく『今はそうしたくない』という意味だから、NOと言われた人も相手の気持ちを尊重しなくてはいけない」と教えていました。日本では、こうしたことが教えられていないせいで、多くの人が、相手に求められたときにNOと言えずにいます。それがドメスティック・バイオレンスにつながっているのに「嫌でも相手を受け入れるのが愛」だと勘違いしている。「自分の権利」を教えないことが、加害者に罪の重さを自覚させず、被害者に非を感じさせるという間違った構図を生んでいます。

 現在の日本の法律上の強姦の定義は、明治時代の古い考えに基づいたものです。女性は常に客体であり、強姦を器物損壊かのように捉えているので、刑事罰も不釣り合いに軽いのです。刑法に「強姦は人権侵害だ」という最も重要な考えが含まれていないことが偏見を助長する一因になっているのではないでしょうか。また日本では、性暴力は被害者自らが警察へ告訴しなければ、捜査も始まらない「親告罪」です。人権侵害の重大さを明確にするためにも、これらの法律は改正していく必要があると思います。

もし被害に遭ったら、あるいは、被害者から相談されたら、どうすればいいですか?

 実際に被害にあったら、警察か病院に行くこと。あるいはホットラインに電話をしてもいいと思います。とにかく、なるべく早く誰かとつながることが重要です。ただ、とても残念ですが、それが最善ではない場合もあります。助けを求めたのに、偏見から被害者側の不注意をとがめる人がいるので、言葉による二次被害を受けることも多々あるからです。そういう意味でも、一刻も早く、SARTやSANEのような仕組みが日本で機能するようになってほしいですね。

 あとは、証拠を残しておくことも大切です。私もそうでしたが、性暴力に遭うと被害を一刻も早く忘れたくて、身体を洗い流したくなります。でも、それを我慢して病院へ行くことを最優先させてください。

 誰かに被害を打ち明けられたときは、無理に言葉をかけなくていい。被害者の苦しみや悲しみを受け止めるだけで十分です。そして、できれば「被害に遭ったのは、あなたのせいじゃない」と伝えてあげてください。たとえ被害者が泥酔し、ミニスカートで夜道を歩いていようとも、人が人を襲うなんて、決して許されません。性暴力を振るう方が絶対に悪いのです。

 警察へ届けるかどうかは、本人の意思を尊重すべきですが、私の場合は、警察の捜査で犯人が逮捕され、裁判で決着がつくことで、後の人生を生きやすくなったと思います。警察への告訴が難しければ、被害者サポートセンターなどへ連絡するのもいいでしょう。

 サバイバーたちに知ってほしいのは「あなたには権利がある」ということ。そして「あなたは大切にされるべき存在だ」ということ。性暴力は決して起きてはならないことだけど、無意味な経験はないと、私は信じています。体験した本人にしか語れないことがあり、できないことがある。だから、その経験は貴重なものだし、価値あることなのだと知ってほしい。そのことに気が付けば、人はまた立ち上がり、歩いていけます。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/那須 桂

冊子表紙

『STAND 立ち上がる選択』
大藪順子 著
いのちのことば社 刊

Project STAND ホームページ
http://nobukoonline.com/

性犯罪被害にあったら!(警視庁)
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/
soudan/w_crime/w_crime.htm


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