TOKYO人権 第55号(平成24年8月31日発行)

インタビュー小さな声、周縁の声を社会に届けるメディアをつくりたい

 インターネットの普及に伴い、市民が発信の担い手となる新しいメディアが増えています。なかでもインターネット放送局「OurPlanet-TV(アワー・プラネット・ティービー)」は企業からの広告を得ない独立系メディアとして、既存メディアが放送しない「小さな声、周縁の声」を発信しています。欧米では全ての人が自由にテレビやラジオにアクセスして発信できる「パブリックアクセス」制度が定着していると言います。日本でも社会的マイノリティの多様な声を伝えられるメディアの確立を模索する代表の白石草さんにお話をうかがいました。

PROFILE

白石 草さん
(しらいしはじめ)
(NPO法人OurPlanet-TV・代表)

写真:白石 草さん

1969年、東京都生まれ。1993年早稲田大学卒業。テレビ朝日系の技術会社、TOKYO MXを経て、2001年に非営利のインターネット放送局「OurPlanet-TV」を設立。独自番組を制作・配信するほか、東京・神保町にメディアセンターを開設。誰もが映像制作やメディアリテラシーを学べるワークショップの実施、NPOのメディア支援などを行う。2012年日本女性放送者懇談会「放送ウーマン賞」受賞。同年OurPlanet-TVは「徹底検証!テレビは原発事故をどう伝えたか」をはじめとした「3.11」以降の一連の原発関連報道で日本ジャーナリスト会議「JCJ賞」受賞。

─以前はTV局で働いていたそうですね。
写真:白石 草さん
撮影/小河原 俊男

 もともとは、テレビ朝日の報道部門で仕事をしていました。その後、東京のローカル局であるTOKYO MX(以下、MX)を経て、OurPlanet-TVを設立しましたから、会計規模でいうと100分の1ずつ小さなメディアに乗り換えていった感じです。

 とりわけ大手キー局で働いて分かったことは、視聴率至上主義では、丁寧に物事を伝えることに限界があるということ。視聴率10%が一つの目標ですから、常に1000万人を対象に番組を作るわけです。万人にウケるためには物事は単純化され、画一化されますし、少数派の意見やデリケートな問題は、不向きな事柄になってしまうわけです。「多様な意見を拾いあげ、より民主的なものを」との思いから、1995年にMXに転職しました。当時のMXは、視聴者の声を積極的に反映するためのパブリックセンターを開設するなど斬新なコンセプトを打ち出していました。でも、ニュースやドキュメンタリー中心の番組編成だったため、広告が取れず、営業的にはうまくいかなかったんです。視聴率や広告代理店が介在する状況下で、個性的なことをやっていくことの難しさを痛感しましたね。

─OurPlanet-TVの設立のきっかけは?

 2000 年、私はMXのデジタル放送推進室に配属され、これからのメディアの在り方について考えるようになりました。そのなかで、インターネットで動画を配信する時代が来ると感じました。社会を良くするためには、世の中の出来事を一つひとつ取材して取り上げていくことも重要だけれど、メディアの在り方そのものも変えていく必要があると思いました。これがOurPlanet-TV設立のきっかけの1つになりました。

 もう1つのきっかけは、私自身が「取材者」としてではなく、「生活者」として、社会の問題に気づいたことですね。私は2人子どもを出産しているのですが、上の子が3歳になる頃、ハンディキャップがあることが判明しました。それまで私は、出生前診断、障害者、基地、水俣病(みなまたびょう)など、人権に関するいろいろな問題を数多く取材していたのですが、取材者としてでは見えていなかったものが自分が当事者になって初めて見えてきました。「メディアの在り方と自分の立ち位置を問い直そう」と思い、2001年にMXを退職したんです。

 それからまもなくしてニューヨークで9.11事件が勃発。アメリカや日本国内の主要メディアがテロリストへの報復が必要だと報道する一方で、インターネット上では戦争に反対する声が国境を越えて飛び交っていました。私は、主要メディアが伝えない市民の声を、共有したいと思い、渋谷や大阪で行われたデモの映像を配信し始めたんです。こうしてOurPlanet-TVはスタートしました。

写真:白石 草さん他
─市民がメディアで発信することは、海外では普通なのですか?

 欧米では、市民が公共の電波にアクセスして発信できる権利(パブリックアクセス)を獲得してきた長い歴史があります。

 例えばアメリカのパブリックアクセスは、公民権運動の過程で確立されました。それまでのテレビ放送は、主に白人によって制作されてきたため、なかには黒人を侮辱する番組もあったんです。そうした番組に対して、「反論権」を求める運動が起こり、マイノリティであっても発信することができる制度に結びつきました。湾岸戦争に反対の声をあげた「ペーパータイガーTV」や、9.11以降のイラク侵攻を批判し続けた「デモクラシーナウ!」といった市民チャンネルは、こうした歴史的な土壌の中で生まれてきたのです。

 一方、アジアにおけるパブリックアクセスは、欧米に比べかなり遅れていたのですが、そんな中でも今は、台湾と韓国が突出しています。台湾は先住民族のチャンネルがあります。複数の民族が固有の言語でクオリティの高い番組を放送しています。韓国では、民主化闘争のなかで市民の声がパブリックアクセスを実現させました。日本でいえばNHKにあたるKBSという公共放送に、市民が発信する枠が設けられていることは注目に値しますね。

─日本における市民チャンネルの状況は?

 放送に関する規制権限を国が握り、大手メディアの寡占が続く日本では、残念ながらTV、ラジオといった公共の電波に市民が参加できる制度は確立しておらず、それを求める動きも活発ではありません。

 しかし例えば、阪神淡路大震災を機に神戸市長田区に「FMわぃわぃ」というラジオ局ができました。震災で甚大な被害をうけた長田区には在日韓国・朝鮮人をはじめベトナム人、中国人など多くの外国籍の人たちが住んでいましたが、当時、在日の方は関東大震災の時に朝鮮人が虐殺されたことを思い起こしたと言います。そうした不安を和らげようと、大阪市生野区の在日コミュニティ向けFM局(FMサラン)が、ミニFM局を長田区に立ち上げました。初めは韓国語・朝鮮語と日本語のみでしたが、言葉の壁により必要な情報を得られないでいたベトナムの人たち向けにベトナム語も加わり、今では10言語で放送されています。そのなかにはアイヌ語もあるんですよ。

 そして現在、福島原発事故は、既存メディアへの不信を生み、市民自らが発信する動きを活発化させています。「真実を知りたい」という思いを根底に持ち、知り得たことを共有しようという人たちや、そのためにはオルタナティブ(注1)なメディアが必要だと感じる人が増えたことが、3.11以前と大きく変わったところだと思います。ただ放送制度を一気に変えるのはまだまだ難しい状況ですが。

─当事者が発信することの意味とは?
写真:インタビュー風景

 正直に言えば、TV 局を辞めた頃は、素人に映像なんか作れないって思っていました(笑)。でも、問題の所在を最もよく分かっているのは当事者なんです。「当事者こそがその道のプロ」だといえます。

 現在、ある薬物依存症の回復施設にいる当事者が自身の問題についてドキュメンタリーを作るお手伝いをしています。薬物の乱用防止は重要な社会的な課題です。しかしその一方で、薬物依存者におされる“烙印と偏見”が、彼らの社会復帰を困難にしているという現実は見過ごされがちです。治療によって社会復帰できるという“希望”を伝えたい当事者がいるにもかかわらず、彼らは社会的な発言の場からは疎外されています。作品を通じて社会にメッセージが届いた時に彼らが得る“自信”は、本当に大きなものです。

─ネット空間では差別的な書き込みが問題になっています。

 現在、特に在日韓国・朝鮮人、生活保護受給者に対するネット上でのバッシングはかなり深刻です。かつて取材した生活保護を受けている方は、外も歩けないほど萎縮してしまっています。確かに「不正」受給は問題です。しかしこれほどまでに根拠なく他人を叩くことが増長されるのはなぜなのでしょう。

 私は、ネットの中で起こっていることは、現実の反映だと思います。つまり、現実の中に存在しながらも、普段は見えにくくなっている差別意識が、ネット上で可視化されているだけ。だとしたら、ネットの中の言論を規制しようとしてもダメなんです。では、どうしたらよいか。結局は、当事者が顔を出して実態を訴えるしかない。大変に勇気と覚悟がいることですが、私たち一人ひとりがその問題を受け止め、隣人への想像力を養うことでしか、差別はなくせないと思います。

 2004 年に、江東区枝川にある朝鮮学校が立ち退きを迫られた出来事について、若い日本人の二人がドキュメンタリーを制作しました。映像の中では在日の方たちは皆、顔を出しています。しかし今まで、この映像が元で誹謗、中傷されたという話は聞いていません。つまり、覚悟をもって訴え出る人たちの存在とタブーを排して多様な表現が増えることが大切なんです。その時、文字にはない映像の“力”はとても有効だと確信します。こうした周縁の、小さな声を届けるメディアが社会には必要なのです。

─日本のメディアリテラシー(注2)の状況は?

写真:ワークショップの様子

ワークショップで小学生に番組制作のアドバイスをする白石さん

 家でも通勤電車でも、映像を見続けている日本人は、世界中で最も“映像漬け”です。しかし、いわゆるメディアリテラシーについてほとんど学んでいないのです。

 子どもたちと映像のワークショップをやると、普段から映像に接しているだけあって皆センスがあります。好奇心も旺盛ですし。ただ、ハリウッド映画や日本のTVアニメに代表されるように、「見やすいもの」を見すぎています。それに今のテレビは、たくさんテロップをつけますよね。これに慣れてしまうと、何も考えずに映像を見るようになってしまいます。ちょっと難しい映像になると理解できない。

 文章だって、長文、短文、詩などを読んだり、書いたりしますよね、それと同じです。難解なフランス映画もあれば、ショートムービーもあり、ドキュメンタリーもある。小学生のうちから、そうした多様な映像に触れるべきだと思います。そして、学級新聞をつくるのと同じように、実際に取材をして、番組をつくってみると、身の回りにあふれるメディアを批判的に、問題意識をもって読み解く力がつくのです。これからの社会を生きる子どもたちにとって、それはもはや不可欠な“力”だと思いますよ。

(注1)alternative(オルタナティブ):既存の支配的な制度、価値に代わりうるものの意
(注2)メディアが発信する情報を批判的に読み解く能力のこと

インタビュー/林 勝一(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/那須 桂

写真:冊子表紙
白石 草 著
『メディアをつくる─「小さな声」を伝えるために』
岩波ブックレットNo.823

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