TOKYO人権 第46号(平成22年6月16日発行)

特集 幻聴妄想かるたってなに?! かるたで作る心の「居場所」

精神障がいという、「心」にまつわるさまざまな困難を抱えている人は、現在、国全体で300万人を超えるとも言われています。特に重度の障がいを抱える人びとの多くは、日常的に幻聴や妄想といった症状に苦しめられています。本人にとっては実際に起こっていることなのに、周囲にはなかなか理解されず、それゆえに地域社会の中でも孤立しがちです。そんな苦しみをかるたにしてしまおうというユニークな試みが、いま密かに注目を集めています。

幻聴妄想かるたとは

「コンビニに入るとみんな友達だった」、「にわとりになった弟と親父」。一見すると意味が分からないこれら、実はかるたの読み句です。このかるたは、世田谷区の精神障害者共同作業所ハーモニーの大ヒット商品なのです。

作業所を利用する方はいわゆる精神障がいを抱える方で、その多くが統合失調症などにかかっています。統合失調症とは、現代の医学では明確に解明されていませんが、脳の神経伝達物質が何らかの原因でバランスを崩して起こる疾患と考えられています。主な症状としての幻聴や妄想はこの疾患を抱える多くの方が体験すると言われています。そんな幻聴や妄想を、外に向けて発信してみてはというアイデアからこのかるたは始まりました。読み句はもちろん絵札も利用者の皆さんが一枚ずつ描いています。またかるた本体だけでなく、かるたの遊び方や読み句への注釈、かるたを作った12名の利用者の体験談などが載った冊子も付いた力作です。

一つひとつ手作りで生産されているかるたは、口コミで広がり、昨年の展示即売会では300組を超す盛況ぶりで、一時は入手困難の大人気商品になりました。

幻聴妄想かるたの見本

「居場所」の回復

幻聴や妄想は、いままでの医療や福祉の現場では看過されがちでした。というのも、それらに対応してしまうとかえって症状をひどくしてしまうと考えられていたからです。当事者の方もそういった病状を話すと、症状が悪化したと思われてしまい、簡単には語ることができなくなってしまいます。彼らにとって、幻聴や妄想は実際に起こっていることで、それにより苦しめられ日常生活にも支障をきたすほど大きな問題です。そういったことを語る場を失い、一人きりで抱えていくことで、精神障がい者は徐々に孤立してしまいます。また、そのような孤立が世間から精神障がいに対する勝手なイメージを作り出し、いわれのない差別や偏見を助長してしまうとも考えられます。こうして精神障がいを抱える人々は社会の中で「居場所」をなくしていくのです。

藤田貴士さんと新澤克憲さんの写真

(向かって左)
成城墨岡クリニック地域援助心理研究所
帝京高等看護学院
世田谷区立上祖師谷ぱる児童館
集団精神療法士 中等教育カウンセラー
藤田貴士(ふじたたかし)さん

(向かって右)
精神障害者共同作業所ハーモニー
施設長 新澤克憲(しんざわかつのり)さん

「作業所の利用者の方々に、いま何が欲しい?と尋ねると『居場所』が欲しいと返ってくるのです。彼らにとっての『居場所』があるということはかなり大事なことなんだと思います」(精神障害者共同作業所ハーモニー施設長 新澤克憲さん)。

「居場所」とは、いわゆる屋根のある家や、施設そのものを指すことばではありません。

「人間の生きていく原動力の根底にあるもの、ここが私の所属している場所なんだということ。それがないと、人はすごく心細くなるんじゃないかなと思うんですよ」(集団精神療法士 藤田貴士さん)。

人はだれしもある場所に所属することで、安全感、安心感、貢献感を感じることができます。その感覚は人が社会で生活するためになくてはならないものです。多くの場合、その場所とは家庭や職場、学校であったりします。人と接することで社会とつながることは、人が建設的に生きるために重要なことなのです。精神障がい者はその障がいゆえに、周囲から理解されにくく、その孤立感が生きる力をいっそう弱めてしまいます。ハーモニーではまずこの「居場所」を回復するところから障がい者の支援をしています。幻聴妄想かるたはその試みのひとつです。

ハーモニーでは、藤田さんの主催するグループミーティングが毎週1回行われていて、それぞれの抱える苦労を語り合います。もちろん幻聴や妄想も大きなテーマです。いままでひた隠しにしていたものに、他の仲間が解決のためにアドバイスをくれ、心配してくれたり、時には共感し合うこともあります。ある当事者の方は、ミーティングを重ねるうちに、みんなに応援されていると感じるようになったそうです。それにより仲間の力や自分の力を感じることができるようになり、所属感や安心感が生まれ、自身の障がいにも向き合えるようになりました。

「こういったことが『居場所』の回復力、持つ力なんだと思います」(藤田さん)。

ハーモニーは高い工賃を得るための作業所ではありませんし、就労をめざして訓練する施設でもありません。ここに来る人々は、家庭や職場、友人関係の中での居心地の悪さを抱えた人々です。理解されている実感がない、心から安心できない、そんな思いを抱えた人々にとっての「居場所」なのです。

いま、必要な支援

今日、障がい者をめぐる状況は大きく変化しました。支援サービスの明確化や就労支援の充実など、障がいを持つ人びとが保護される存在から、仕事を得て自分自身の力で生きていく存在へと変わっていく社会が近づいてきました。しかし一方で、そういった流れについていけない人たちがいることもまた事実です。

精神障がいは症状によっては、論理的に物事をとらえたり説明したりすることが難しくなっていきます。自分にはどのような支援が必要なのかということさえことばにできない場合もあるのです。とにかく、いま目の前にある幻聴や妄想といった苦しみをまずどうにかしたい…。

「いままで何十年も病気で苦しんできて、毎日ごはんを食べるだけで精一杯、という人たちに、将来の就労だとか、そういったことを問う前に、今が安心だね、ホッとしたねと思ってもらえる場づくりが大事だと信じています。そういう場を提供したいのです」(新澤さん)。

いま、ホームヘルパーや移動介助というような支援(目に見える福祉サービス)とは別のかたちの「支援」が必要とされているのではないでしょうか。そのひとつが病気の症状を含めて、安心して自分を表現できる居場所の提供であり、この幻聴妄想かるたは、そんな場だからこそ作り出せた商品なのです。

「かるたを手にとってくださった方は、一度ぜひハーモニーに遊びに来てください。そしてミーティングにも参加してみてください」(藤田さん)。

特定非営利活動法人やっとこ 精神障害者共同作業所ハーモニー

特定非営利活動法人やっとこのマーク

〒154-0017
 世田谷区世田谷3-4-1アップビル2F
 TEL:03-5477-3225
http://www.geocities.jp/harmony_setagaya/

 

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