TOKYO人権 第38号(平成20年6月18日発行)

特集 このアザは、ぼくの大事な宝物

海綿状血管腫(かいめんじょうけっかんしゅ)というめずらしい病気のため、大きなアザが藤井輝明(ふじいてるあき)さんの顔に現れたのは2歳のころでした。それ以来、人々の好奇の目に傷つき、数々のつらい目にあってきました。それでもいじめや障害に屈することなく、現在は人権教育のために全国を飛び回っています。ご自身のことを「歩く教材」と笑い飛ばし、「海綿状血管腫はぼくの宝物」と語る藤井さんに、これまでの体験と人権教育の考え方についてうかがいました。

差別や偏見の目にも笑顔を返すと穏やかな気分になれる

PROFILE
顔写真

藤井輝明さん

医学博士。1957年、東京都国立市生まれ。中央大学経済学部、千葉県立衛生短期大学第一看護学科卒業。筑波大学大学院修士課程、名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了。熊本大学医学部保健学科看護学専攻教授、鳥取大学大学院医学系研究科教授などを歴任。
現在、顔に病気や傷などを抱える人たちに対する偏見をなくすため、学校を中心とした講演・交流活動をはじめ、京都の人権・観光ガイドに関するNPO法人遊悠舎「京すずめ」の理事としての活動や高齢者福祉入浴活動を先導するほか、熊本県生涯学習センター講師やハンセン病回復者の方たちが暮らしている国立療養所菊池恵楓園にて看護部の研修指導にあたるなど、幅広い社会活動を行う。
著書に『この顔でよかった』(ダイヤモンド社)、『笑う顔には福来る』(NHK出版)ほか多数。
質問容姿のことで幼少のころからつらい経験をされてきたそうですね
藤井輝明さんの写真

わたしは海綿状血管腫が原因で、幼いときから顔の右半分に大きなアザがあります。そのために、幼いころはいじめっ子からひどくはやしたてられたものでした。でも、わたしの母は「輝ちゃん、顔のことでいじわるされても、殴ったりたたいたりしてはいけないのよ」と言いました。そして「いじめっ子に対する最高の仕返しは、明るく堂々としていること。何事もなかったように笑顔で返しなさい」と。いじめっ子は、過敏に反応するほど面白がり、ますます調子に乗るものです。だから、これはじつに的を射た教えでした。でも、わたしは決して聖人君子ではありません。20代までは、通りすがりの人から露骨にジロジロと顔を見られただけで、精いっぱいの怒りを込めてにらみ返していたのです。

転機が訪れたのは大学時代でした。ゼミの友人や先輩に「きみは笑顔が素敵なのに、どうしていつも気難しい顔をしているの?」と言われたのです。彼らのおかげで、幼いころに母が諭してくれた言葉が鮮やかによみがえってきました。それ以来、わたしは突き刺すような視線を浴びせられても、ニコッと軽く会釈をするようにしています。相手は気まずそうに目を逸らしたり、キョトンとしていたりなど反応はさまざまですが、なかには笑顔を返してくれる人もいます。そんなちょっとしたやりとりだけで、わたしは穏やかな気分になれます。同時に、これまでは本当にもったいないことをしていたと反省しました。

いまでは「いじめはかわいそうな人がすることだ」と、心から思います。個性を尊重する気持ちが無いということは、人間としての“品位”を自分自身で下げていることになるからです。そのことに早く気づいてほしい。そして、そのことに気づかせることができるのが人権教育なんです。

当事者と直接ふれあう21世紀の人権教育

質問「ふれあいタッチング交流」とはどんなものですか?

全国の小・中・高校へ講演に出かけて、わたしの顔にふれてもらうというものです。最初はわたしを見るとみんな驚き、こわごわとした表情をしています。ホラー映画やテレビに出てくる怪獣など「醜いものは怖い悪者」だと、幼いころから刷り込まれているからでしょう。けれど、人権教育はマイナスの感情をとらえて、そこから話を発展させるものですから、否定的な反応を恐れる必要はありません。

講演を始めてから15分も経たないうちに、子どもたちはわたしとうちとけて、あっと言う間に仲良くなります。そして頃合いを見て、わたしの方から「このアザにさわってみたい人はいるかな?」と聞くのです。最初はおっかなびっくりで、ほとんどの子どもはさわった瞬間に「うわっ!」と驚きますが、わたしが「もうちょっとさわっていいよ」と言うと「やわらか〜い」「おまんじゅうみた〜い」という素直な反応が返ってきます。

先入観さえなければ、子どもの感性はこのように温かく、優しくて純粋です。「人権教育は小学校高学年から中学生以上にならないとわからない」という人もいますが、それは間違いです。むしろ幼いほど良い。保育園、幼稚園のころから「世の中にはいろんな人がいるんだ」ということを知るのは本当に良いことです。

海綿状血管腫は決して感染する病気ではありません。そのことをわかってもらうためには、言葉だけで説明するより、実際にふれてもらって五感に訴えるほうが早い。ふれて、さわって、タッチング! ―― それがわたしのやり方です。21世紀は、こうした「体感・体得の人権教育」こそが求められていると思います。

わたしの「ふれあいタッチング交流」に参加してくれた子どもたちは、すでに10万人を超えました。これまでの人権教育は「差別や偏見、蔑視の問題は、言葉で教えて理解をうながす」というやり方がほとんどでした。もうずいぶん長い間「いじめはよくない」「差別はやめよう」と言葉で教え続けてきたのに、いじめや差別がいまだになくならないのは、そのやり方に限界があるからです。

ある研究によると、感情にかかわる内容を言葉だけで伝えようとしても、相手には7%しか理解できないそうです。35%は表情や目線や声の調子であり、残りの58%は身振り手振りなどのボディランゲージです。人権教育も、人間の感情に訴えるためには、当事者自身が実際に足を運び、現場で交流するのが最も効果があります。そのことを、わたしは経験者として文字通り肌で感じています(笑)。

質問「障害は個性」とおっしゃる意図は? 

「人と違う」ということは、決して悪いことではありません。童謡詩人の金子みすゞ(かねこみすず)の詩のなかにも「みんなちがって、みんないい」という素晴らしい言葉がありますね。人間は一人ひとり、その人にしかない宝物を必ず持っています。その違いこそが個性であり、それがわたしの場合にはたまたま障害だった。たしかに障害があると不便なことはありますが、だからと言って他人とくらべて優劣をつけるようなものではありません。

こんなことを言うと「やせ我慢でしょ?」「きれいごとでしょ?」と言われることもありますが、そうではありません。いかに自分らしさや自分のよさを発見していくか。その上で、それぞれの個性をお互いが認め合う社会をいかに作り上げるか。それが人権教育の本質なんです。

障害のある友達が同じ教室に普通にいて、個性をお互いに認め合う環境であれば、子どもたちは必ず良い影響を受けます。これには実例があります。わたしの高校時代の同期卒業生は全部で400人ほどなのですが、驚いたことにそのうちの100人近くが医者になっているのです。いまでも同期会で会うと「おれたちはラッキーだ、藤井のおかげで海綿状血管腫という病気を子どものときから知ることができたんだから」と言います。わたしの存在が医学に興味を持つきっかけになった、というわけです。

あるいは、教師になった友人に尋ねてみると、小学校のころにクラスで担任の先生が言った「藤井くんのアザは素敵なアクセサリー。だから、いじめたりしないで仲良くしようね」という言葉を聞いて「こんなふうに、子どもたちを励ますことのできる学校の先生っていいな」と思ったそうです。

その他にも、わたしは海綿状血管腫のおかげでさまざまな出会いに恵まれました。何冊も著書を出し、新聞や雑誌にも掲載され、テレビに出演させていただくこともできました。今日こうしてお話しさせていただけるのも、この病気が機会を作ってくれたのです。できあがった出版物を見て関心を持ってくれる人がさらに増えれば、やがて個性を尊重する人権教育の波はうねりとなって広がるでしょう。そう考えると、このアザはいくらでも宝物が出てくる「打ち出の小槌(うちでのこづち)」のようなものでしょう(笑)。

最初の一歩を踏み出せば、きっと「生きていてよかった」と思うはず

質問障害に悩んだり苦しんだりしている人たちにメッセージをお願いします。

海綿状血管腫の患者さんは、全国に約2万人いますが、世間ではほとんど知られていません。まだマイノリティーとして認知されてもいない段階なのです。それは患者さん自身が家の中でふさぎ込んでいて、ほとんど外へ出ようとしないからです。

この病気だけでなく、障害を抱えている人は「外に出ると人から後ろ指をさされるんじゃないか」と不安でいっぱいだと思います。でも、人と出会って話をして自分のことを伝えていけば、それだけで世界が広がります。それは本当に楽しいことですし、もっと学びたい、もっと世界を広げたいという欲求が湧いてきます。時には理解されないこともあるでしょう。でも、自分をわかってくれる人は必ずいます。少しずつ結果を出していけば、自信にもつながります。そして、夢や希望を持てば自己肯定感が高くなります。「わたしの話を聞いてくれる人がいる」と感じる。それだけで自尊心は満たされ、「生きていてよかった」と思えるはずです。

お互いにふれ合い、感じ合い、理解し合える社会にしていく。そのためにも勇気を出して、外の世界へ踏み出してみてください。みなさんがその第一歩を実現できるように、わたしはこれからも社会に向けてメッセージを伝え続けていくつもりです。

文 山川英次郎

冊子表紙

『この顔でよかった』

ダイヤモンド社 刊

 
冊子表紙

『笑う顔には福来る』

NHK出版 刊

 

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