TOKYO人権 第21号(平成16年4月1日発行)

特集2 障害者の雇用創出だけにとどまらず自立のお手伝いをしたい

早川雅人さん本田洋市さん 法律では、企業に対し、従業員の1.8%以上、障害者の雇用を義務付けていますが、未だに1.48%にすぎません。多くの知的障害者は給料の低い福祉施設である共同作業所等で就労しているのが現状です。
そこで、ヤマト福祉財団は、障害者の雇用に変革をもたらすため、「障害者の月給10万円以上をめざす」ことをうたい、数々の事業を行ってきました。今回は、事務局長の早川雅人さんとマネージャーの本田洋市さんのおふたりに、財団の事業内容とともに、スワンベーカリー出店の経緯などについてお話をうかがいました。

ヤマト福祉財団 事務局長 早川雅人さん ヤマト福祉財団 マネージャー 本田洋市さん

平均月給が一万円では障害者の自立はほど遠い
 ヤマト福祉財団は、障害者の自立と社会参加への支援を目的として、平成5年に設立されました。
 ヤマト運輸の創始者・小倉昌男会長(現ヤマト福祉財団理事長)が、ハンディキャップをもっている人に、何かできることはないかと考えたことが、財団を設立したきっかけですが、その後、各地の障害者施設や作業所を見学に訪れた際、非常に低い賃金で働いている障害者の方々を目の当たりにし、その思いが一層強くなったとのことです。
「全国各地の共同作業所で働く障害のある方の月給を調べてみると、平均で1万円以下ということがわかりました。これはあくまでも平均ですから、1万円に満たない方も大勢いるわけです。日給に換算すると、たった百円台。この事実に対して、理事長は非常に強い衝撃を受けていました。それ以降、福祉のことは何も知らないが、経営のことなら42年間経営者としてやってきた実績がある。その経験をもとに、共同作業所の運営当事者に経営のノウハウを伝えてみてはどうだろうと思
ったそうです」(本田さん)

 現在、障害者のおもな仕事場となっているのは「共同作業所」と呼ばれる施設です。社会福祉施設のなかでは、唯一障害者に就労の機会を与えている場として機能しており、ほとんどは障害者の親の会などが中心になって設立・運営されています。重い障害がある方もおり、作業内容も限定されるため、仕事内容も「利益は二の次」といった軽作業が中心になってしまうことが多いようです。
「共同作業所の多くは、小物作りをしたり、空き缶を拾い集めて潰したり、天ぷら油に化成ソーダを混ぜて石鹸を作ったり……そういう作業を毎日していると聞いています。これらの作業は利益を生み出すといったものではありませんので、障害のある方に十分な給料を払えないというのが、実態のようです」(本田さん)

 これまでの障害者作業所には、社会福祉施設ということで、お金を生み出そうとする経営の視点が欠けていたのです。こうしてヤマト福祉財団は、障害者の自立と社会参加を実現するべく、様々な支援活動を開始しました。

スワンベーカリー銀座店のオープンと月給10万円の達成

 事業の第一歩となったのは、株式会社として、ベーカリーショップを出店することでした。
「まずは『アンデルセン』『リトルマーメイド』を全国展開しているタカキベーカリーの高木誠一社長に、理事長自身が「障害者が働けるパン屋を作りたい」という事業構想を持ちかけました。すると、快く受け入れてくれたのです。おかげさまで、パン製造技術をそのまま提供していただけるようになりました」(早川さん)
 こうして平成8年12月、障害者を雇用しながら月給10万円以上を目指すという「スワンプロジェクト」が動き出しました。
「タカキベーカリーでは、一次発酵を終えたパンを急速冷凍したパン生地を使っています。店舗では解凍して焼き上げるだけで、全国どこでも同じ美味しさの焼き立てパンが味わえます。このノウハウを活かせば、障害のある方でも十分に働くことができると判断しました」(本田さん)
 そして平成10年6月、障害者6名と健常者8名のスタッフを迎え、1号店となる銀座店をオープン。結果は予想を上回る大成功でした。銀座のOLやサラリーマンを中心に多くのお客さんに気に入っていただけたおかげで、現在では一日20万円前後の売上があるそうです。もちろん「障害者の給料を10万円以上に」という当初の目標も、オープン以来ずっと守り続けています。

福祉助成金を通して障害者の社会参加を促す

 障害のある大学生への奨学金制度や障害者施設・各種団体への助成などの事業も行っています。ちなみに、昨年の助成金合計額は8000万円にのぼりました。
「当財団が独自に運営する奨学金の対象となるのは、4年制大学へ進学する障害のある方です。償還や返済の義務はありませんから、貸与ではなく供与という形になります。そもそも重い障害を抱える方が普通の学校へ通うためには、家族の方による介護が必要になりますよね。でも、そうすると仕事をする時間が減ってしまい、結果的にはますます経済的負担が大きくなってしまう。こうした現状を変えるためにも、今後も奨学金の制度を充実させていこうと考えています」(早川さん)
 また、全国の共同作業所に対して、施設の改修や備品の購入など、様々な助成を実施しています。
「当初は作業効率を上げるためのものや、給与の増加に直結するようなものを考えていましたが……実際はトイレ工事やエアコン設置、屋根の修理などの基本的な設備需要がほとんどです。ですから、まずはこうした環境整備から始めている段階ですね」(本田さん)

最終的な目標は障害者が自立できる社会を作ること

スワンベーカリー 平成8年以来、共同作業所の経営者や職員を対象に「パワーアップセミナー」を全国各地区で毎年開催しています。
「セミナーでは共同作業所の活性化を目的として、小規模作業所の経営について研修を行います。最近では、スワンベーカリーのフランチャイズ店のように成功を収める事業体も誕生しているなど、着実に成果を上げています。ちなみに参加費用は、2泊3日分の宿泊費、交通費、食事代、受講料などをすべて含めて5000円です。最初の頃は安すぎるためか、逆に怪しまれたこともありました(笑)」(本田さん)
 最後にヤマト福祉財団の今後についてお聞きしました。
「いずれにしても、現在スワンベーカリーやカフェなどで実施している障害のある方の雇用は、あくまでもひとつのステップに過ぎません。最終的な目標は、より多くの障害のある方が一般就労できるような体制を築き、そして多くの障害者の方が自立できる社会を作ることです。その大きな目標に向かって着実に成果を上げるためにも、宅急便事業で長年培ってきたカスタマーオリエンテッド(顧客指向:顧客中心主義)の精神を発揮する必要があります。そして福祉の世界のニーズをいち早く掴み、それに対して迅速に行動へ移すようにしていきたいと考えています」(早川さん)


障害者の自立・社会参加を目的としたヤマトグループの関係会社
ヤマトグループでは、障害者が自分の力で収入を増やして働きがいや生きがいを見出し、最終的に「自立」を支援するため、これまでに3つの関係会社を立ち上げました。ここでは、それぞれの企業について紹介します。

株式会社スワン
 平成10年設立した「スワンベーカリー」と「スワンカフェ」を全国にチェーン展開している会社。平成10年6月、銀座に1号店をオープンさせてから2004年3月現在まで、直営3店とフランチャイズ8店、合計11店舗まで拡がりました。今後も全国各地に新しいスワンが続々とオープンする予定です。

大崎みえ子さんスワンベーカリー銀座店 販売主任大崎みえ子さん(29歳・入社6年目)

大崎さんは、スワンベーカリー銀座店のオープンと同時に入社した生え抜きのスタッフの一人です。知的障害があり、入社当時は江東区の自宅から通っていたものの、2年目からは親元を離れ、中央区にあるグループホーム(福祉寮)へと引っ越しました。現在、平日は福祉寮から通い、週末だけ自宅に帰る生活を送っています。そんな大崎さんに「職場の居心地はどうですか?」と質問すると「明るい雰囲気で、とても働きやすいです」とにこやかに答えてくれました。ちなみに、販売主任としてのモットーは「元気な声でお客さんと対応すること」だそうです。自立した生活を送っていることや、仕事を任されているという自信からでしょうか、店内で働く姿はとても生き生きとして見えました。

株式会社スワンネット
 障害者を支援する商事会社として平成13年4月に発足。全国の共同作業所をネットワーク化して、新しい流通経路を確立・運営しています。現在、52カ所の作業所が、ジャガイモやタマネギなどを農家から仕入れ、共同作業所に小分けして卸しています。また、季節商品や草花などの商品を扱う試みにも挑戦中。

株式会社スワン製炭
 木炭の製造・販売会社として平成15年6月にスタート。現在、4カ所の作業所(「カリタスの家」「カントリーワークぱんぷきん」「あらくさ」「どんぐり」)に、炭の製造を委託しています。また、製造された炭は自社ブランド「スワンの木炭」として、店頭販売(九州の一部の宅急便センターのみ)やネット販売を展開しています。




ページの先頭へもどる

 
公益財団法人 東京都人権啓発センター  当センターへのお問い合せ
〒111-0023 東京都台東区橋場一丁目1番6号 電話:03-3876-5371 FAX:03-3874-8346

Copyright(C)2011 Tokyo Metropolitan Human Rights Promotion Center. All rights reserved.